1972年の日台断交から50年の節目を迎え、李登輝基金会などの主催で「日台関係の今後50年を約束する」と題した学術シンポジウムが31日に開催された。蔡英文・総統はあいさつで、「日台関係は近年の発展により、史上最も友好的な新時代に入った」と語り、安全保障面での協力をより常態化することなどについて期待を示した。日本台湾交流協会の泉裕泰・台北事務所代表は、日台関係は、7月30日が命日の李登輝・元総統と、8日に死去した安倍晋三元首相という二つのエンジンを失ったと指摘。安倍元首相が創設を推進した環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定（CPTPP、いわゆるTPP11）について、台湾にとってCPTPPは現状を維持し、生存を確保していくために必要な体制であり、全力で加盟を支援すると表明した。1日付自由時報などが報じた。

蔡・総統（中）は、日本の現代美術作家、奈良美智さんが台湾で個展を開催したことに触れ、市民社会・教育文化面でも日台の協力を深化していくと述べた。泉・台北事務所代表（左2）、李・元総統の次女、李安妮（アニー・リー）李登輝基金会董事長（左4）らも出席した（総統府リリースより）

　蔡・総統のあいさつの前に、出席者は安倍元首相への哀悼の意を示すため1分間の黙祷（もくとう）を捧げた。

　蔡・総統は安全保障に関連し、日本が近年、国際的な場で複数回にわたり、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調したことに対し、感謝の意を示した。また、自民党の石破茂元幹事長ら、超党派の衆参両院議員の安全保障勉強会「日本の安全保障を考える議員の会」メンバーと28日に会談し、地域の安全をテーマに意見交換したと説明した。

　蔡・総統は、米国との対立が深まっている中国を念頭に、台湾と日本はいずれも「第一列島線」（九州～沖縄～台湾～フィリピン）の防衛上で極めて重要な位置にあると指摘。日台は協力を深化し、共同でインド太平洋地域の平和と安定を維持するとの共通認識の下で、さらに緊密で常態化した協力の方法を構築する必要があると語った。

　蔡・総統は経済面では、ファウンドリー最大手、台湾積体電路製造（TSMC）とソニーが熊本県で工場設置を進めていることを例に挙げ、台湾と日本は産業界のバリューチェーンのパートナーであって、競争相手ではないと述べた。今後も経済・貿易面での協力を続けることで、双方が国際分業上で優位を保つことができると指摘した。

　また、台湾は高い国際貿易基準に準拠する準備を既に整えたとし、CPTPPへの正式な加盟を期待していると語った。

　泉・台北事務所代表は、安倍元首相は台湾の加盟までを見据えて、CPTPPを創設したと信じていると述べた。中国、日本、東南アジア諸国連合（ASEAN）諸国などが参加する地域的な包括的経済連携協定（RCEP）などの多国間貿易体制が成立していく中、台湾も多国・地域間貿易の枠組みの一つであるCPTPPに組み入れられることが必要だと語った。

　また泉・台北事務所代表は、米国が台湾との断交後、議会で台湾関係法を成立させ、国家に準じた扱いをすることを規定し、台湾の防衛について一定の責任を有することを明確に示したのとは対照的に、日本は台湾の安全保障について何ら規定していないと指摘。ただ、安倍元首相の「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事である」との発言が、日本で少しずつ共有されつつあるとの見解を示した。

石破氏ら、李元総統の墓参り

　石破元幹事長ら日本の安全保障を考える議員の会メンバーは、台湾訪問の日程最終日の30日、新北市汐止区の五指山国軍示範公墓を訪れ、李・元総統の墓参りをした。李登輝基金会の鄭睦群・執行長は、石破元幹事長が墓参りの後、安倍元首相の生前の意志を継ぎ、日台で協力して地域の平和を維持していくと表明したと、感謝の意を示した。

石破元幹事長（左3）らは30日早朝、李・元総統の墓前に花を手向け、帰国の途に就いた（30日＝中央社）

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