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第556回 人工知能基本法草案/台湾


ニュース 法律 作成日:2025年2月10日_記事番号:T00119964

知っておこう台湾法

第556回 人工知能基本法草案/台湾

 米国の生成AI(人工知能)「ChatGPT(チャットGPT)」に続いて、中国大陸で2025年1月に人工知能プラットホーム「DeepSeek(ディープシーク)」がリリースされ、世界各国で再び人工知能に注目が集まりました。

 台湾法では、人工知能について定めた法規はまだなく、現時点では、国家科学・技術委員会が2024年7月15日に公布した「人工知能基本法」草案(以下「本草案」)があるだけです。

 本草案の要点は次のようになっています。

■定義と基本原則

一、人工知能の定義:本草案第2条によると、人工知能とは、機械をベースとしたシステムであって、自律的な動作能力を備え、入力または感知により、機械学習やアルゴリズムを通じて、明確なまたは隠れた目的のために予測、コンテンツ、提案または意思決定などを実現できるものを指します。

二、政府が人工知能を推進するにあたり従うべき原則:本草案第3条によると、台湾政府は人工知能の研究開発および応用を推進するにあたり、下記の基本原則(抜粋)に従わなければなりません。

(1)人類の自己決定を支持し、基本的権利および文化の価値を尊重し、人間本位の基本的価値を確実にする。

(2)社会的公平性と環境の永続性の両方に配慮し、アルゴリズムによる偏見や差別の発生を防止する。

(3)個人情報やプライバシーを適切に保護すると同時に、非機微情報の公開および再利用を促進する。

(4)情報セキュリティの防護措置を講じ、システムの堅牢性および安全性を確保する。

(5)存在し得るリスクを評価しかつ関連する権益への影響を知ることができるよう、人工知能で生成されたものについては、適切な情報により開示するか、または標識を付さなければならない。

■政府の施政方針

三、人工知能に関する政府の施政方針:本草案第4条から第17条までによると、関連する施政方針は次のとおりです(抜粋)。

(1)各主務官庁は、人工知能による革新的製品またはサービスについて、革新的実験のための新たな環境構築または既存環境の整備を行う(すなわち、規制のサンドボックス)ことができる。

(2)政府は公私協力方式により、民間と協力して人工知能の創出・運用を推進すべきである。

(3)政府は、人工知能に関する国際協力の推進に尽力するとともに、国際的な共同開発や研究に参加しなければならない。

(4)政府は人工知能のリスクの格付に基づき、標準、規範または指針により潜在的な脆弱性および濫用状況について評価を行い、人工知能による意思決定の検証可能性および人為的制御可能性を高めなければならない。

(5)政府は、スキルギャップを回避し労働の権益を確保するとともに、人工知能の利用に起因する失業者に対し就労訓練対策を提供しなければならない。

 本草案の内容から、台湾政府が人工知能の発展を重視していることや人工知能の発展に対する台湾政府の全体的な考え方を、ある程度理解することができます。

 本草案がいつ正式な法律となるか、また、台湾政府が本草案の規定を実際の措置によってどのように実行するかなどについては、引き続き注意を払う必要があります。

 

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

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