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第585回 営業秘密と国家の安全


ニュース 法律 作成日:2025年9月1日_記事番号:T00123831

知っておこう台湾法

第585回 営業秘密と国家の安全

 2025年8月上旬、ファウンドリー最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の現従業員2名と離職した従業員1名が、同社の2ナノメートルプロセスの中核技術を窃取し日本の某有名企業に漏えいした疑いで、知財・商業裁判所により勾留されました。

 TSMCは先端技術を有する世界的な有名企業であり、台湾で「護国神山」と呼ばれるほど名声のある会社であることから、本件が発覚し、台湾社会を大いに驚かせました。

■国家安全法に関係

 本件の特殊性は、窃取された2ナノプロセス技術が、TSMCの営業秘密であるのみならず、国家安全法(以下「本法」といいます)の下記条文にも関係しているという点にあります。

第3条第1項第1号:「いかなる者も、外国、中国大陸地域、香港、マカオ、国外の敵対勢力またはそれらが設立しもしくは実質的に支配する各種の組織、機関、団体もしくはその派遣した者のために、以下に掲げる行為をなしてはならない。

1.窃取、不法占有、詐術、脅迫、無断複製またはそのほかの不正な方法により、国家の中核的重要技術の営業秘密を取得し、または取得後さらに使用、漏えいすること。」

第3条第3項:「第1項における国家の中核的重要技術とは、外国、中国大陸地域、香港、マカオまたは国外の敵対勢力に流出した場合、国家の安全、産業競争力または経済発展に重大な損害を与えることになる技術で、以下に掲げるいずれかの条件を満たすものであって、かつ、行政院の公告の発効後、立法院に届出がなされるものを指す。

1.国際条約、国防上の必要性または国家の重要インフラの安全防護の見地から規制すべきもの。

2.台湾における先導的技術の創出または重要な産業競争力の大幅な向上を促すことができるもの。」

第8条第1項:「第3条第1項の各号の定めのいずれかに違反した場合、5年以上12年以下の懲役に処するものとし、500万台湾元(約2400万円)以上1億台湾元以下の罰金を併科することができる。」

■3人を起訴、求刑最大14年

 また、通常の営業秘密漏えい事件は、犯罪地または被告人の所在地の地方検察署および裁判所の管轄となりますが、本件は台湾の国家の安全にかかわるため、本法第18条第2項により、台湾高等検察署知財分署、知財・商業裁判所の管轄とすることが特別に定められています。

 よって、今回は、当該分署の検察官が、本件の3名の被告人に「国家の中核的重要技術」に該当する2ナノプロセス技術を窃取・漏えいした疑いがあるとして上記の被告人を逮捕し、裁判所に勾留を申し立てて許可されました。

 本件は台湾でここ数年間に発生した最も重大な営業秘密漏えい事件の一つです。検察は27日、国家安全法違反などの罪で、当該3名を起訴し、それぞれ拘禁14年、9年、7年を求刑しました。

蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

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