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第218回 特許侵害訴訟後の特許取り消し


ニュース 法律 作成日:2017年2月22日_記事番号:T00069125

第218回 特許侵害訴訟後の特許取り消し

 原告は2000年に出願し、翌年に認められた実用新案第227463号「自転車用ブレーキライニング自動定位置挟み込み機構」が、某社が大手自転車メーカー、巨大機械工業(ジャイアントMFG)に提供している「IOブレーキキャリパー」に権利を侵害されているとして、08年に台中地方裁判所に対して、侵害の停止と損害賠償500万台湾元を求めて提訴しました。

 被告は、同製品は被告の実用新案第178006号を行使したものであると主張しました。裁判所は、被告の実用新案は「カムを利用した設計により回転するブレーキ機構」であるのに対して、被告の製品は「ベアリングを利用した技術設計により回転するブレーキ機構」であることを確認し、被告の主張を認めませんでした。その上で、裁判所は、原告の登録請求の範囲と、被告の製品を比較し、両者が同じものであると判断し、権利の侵害が成立するとして、原告勝訴の判決を下しました。

 賠償金額については、国税局への申告資料を基に、被告が07~08年に同製品を販売して得た利益(販売価格-コスト)が1,207万3,915元であったことから、原告の請求額は合理的なものであるとしました。

 これに対して被告は、原告の実用新案には進歩性がないため無効であると主張し、控訴しました。第二審の知的財産裁判所は10年末、以下の判断により控訴を退けました。

 「被告は第一審において原告の実用新案が無効であることを主張しておらず、第二審で初めて主張したが、その『主張が遅れた』理由を述べていないため、同主張は斟酌(しんしゃく)しない」

 被告は上告しましたが、最高裁判所は翌年3月に訴えを退け、判決が確定しました。

無効主張の遅れがあだに

 被告は第二審の後、10年2月に知的財産局に対して、原告の実用新案には進歩性がないと主張し、無効審判を請求しました。12年1月、知的財産局は原告の実用新案を取り消す判断を下しました。

 被告は大喜びで知的財産裁判所に対して、「原告の実用新案は無効審判によって取り消されたため裁判所は審理を再開するべき」として、再審の開始を請求しました。しかし裁判所は、実用新案は知的財産局の審決により取り消されたが、行政救済が進行中のため、同実用新案は現在も有効であり、審決が確定するまで裁判所は再審を開始することはできないとして、12年3月に被告による再審の請求を棄却しました。

 被告は上告しましたが、最高裁判所は13年3月に以下の通り上告を棄却しました。

 「知的財産局による実用新案取り消しの行政処分は、行政救済が提起されたため未確定である。そのため、同実用新案取り消しの行政処分によって、原確定判決の基礎に変動が生じたと認めることは難しい」

 その後、原告による訴願は棄却され、最高行政裁判所が13年に原告の実用新案を取り消す判断を下し、被告はその30日以内に再審を請求しました。しかし、知的財産裁判所は14年9月、以下の理由から、訴えを退けました。

 「原判決において、原告の実用新案が有効であるとされたのは、被告による無効の答弁が遅かったせいで、知的財産局が実用新案を認めたからではない。そのため、たとえ実用新案の取り消しが確定したとしても、被告は再審の開始を求めることはできない」

「初めから存在しない」

 被告は上告し、最高裁判所は15年3月に原判決を破棄する判決を下しました。最高裁判所の認定は以下のようなものでした。

1.特許権者が特許権に基づいて提起した侵害訴訟の勝訴判決が確定した後に、特許権の取り消しが確定した場合、同特許権の効力は初めから存在しなかったものとされるのであるから、判決の基礎となった行政処分に変更があったと認めるのが妥当である

2.上告人は前訴訟手続きの第二審において、実用新案が無効であることを抗弁しているが、原第二審判決において、遅れてなされた攻撃防御方法であるとして訴えを退けられた。これは言い換えれば、係争特許の有効性について、原確定判決は自ら判断を行っていないということにほかならない

 これにより本案は知的財産裁判所に差し戻された後、知的財産裁判所による再審の開始が認められ、原判決は破棄され、原告の訴えは退けられました。知的財産裁判所は15年10月に下した判決の中で以下のように述べています。

1.民事判決確定後、特許権の取り消しが確定した場合、同特許権の効力は初めから存在しなかったものとされるため、原判決が基礎としている訴訟手続きおよび裁判資料には、重大な瑕疵(かし)があることになる。従って、原確定判決の既判力が当事者に与える拘束力もまた正当性を欠いたものとなる

2.日本においては11年に特許法第104条の1が増設され、再審事由の制限範囲が拡大されたが、その制限を受けるのは、被告が「特許の有効性に対する攻撃防御方法が裁判所によって判決が出された、すなわち被告の提出する特許権の有効性に関する抗弁および引証判断に対して裁判所が判断を行っている」案件を提起した場合である

 原告は上告しましたが、最高裁判所は17年1月に訴えを退けました。これにより、「上告人の係争特許は、行政救済手続きにおいてその取り消しが確定したため、係争特許は初めから存在しなかったものとされる。そのため上告人は、被上告人が係争特許を侵害していると主張することも、被上告人に対して損害賠償責任を求めることもできなくなる」ということが確認されました。

 ただ、この結果を得るまで、原告が侵害を主張した年から10年もかかってしまいました。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw