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ビギナーのための「今さら訊けない台湾政治」


ニュース 政治 作成日:2017年7月17日_記事番号:T00071719

ワイズニュース創刊10周年特集

ビギナーのための「今さら訊けない台湾政治」

 ワイズニュース創刊10周年特集の第3回は、「今さら訊けない台湾政治」と題して、台湾政治の現状を解説します。台湾は中国との関係が経済や市民生活に影響を及ぼすため、台湾経済の動向を把握する上で政治への理解が不可欠と言えるでしょう。

本省人と外省人

 台湾社会の最も主要な住民層は本省人と外省人です。本省人は戦前の日本統治時代から台湾に居住していた人々とその子孫、外省人は中国大陸での国共内戦で敗れ蒋介石元総統と共に台湾に渡ってきた人々とその子孫です。

 外省人は、戦後長く続いた国民党一党支配体制の下、1990年代初頭まで台湾の政治、経済を牛耳ってきました。台湾を中国の一部と考え、台湾独立に反対する人が多いのが特徴です。

 本省人は人口では多数派ながら、戦後間もない1947年の228事件で国民党政権による弾圧を受け、抑圧されてきました。日本統治時代が50年間に及んだため外省人との間に文化的ギャップが生じたこと、また国民党の高圧的な統治に対する反発から、台湾は中国の一部ではないと考え、台湾独立を願い、日本に親近感を寄せる人が多く見受けられます。

民主化、初の政権交代へ

 先週7月15日は87年に戦後38年にわたって敷かれていた戒厳令が解除されてからちょうど30周年でした。台湾現代史の分岐点で、この後、李登輝総統が登場し、民進党に結集した本省人グループの下からの運動もあって民主改革が進み、96年に総統直接選挙が実現して一つの結実点を迎えます。00年には国民党陣営の分裂によって民進党の陳水扁政権が誕生、戦後初の政権交代が実現しました。

台湾主体意識が定着

 陳政権の下では、企業・団体名などを「中国」から「台湾」に変更する台湾正名運動などを通じて台湾人意識が高まり、中国大陸と一体としてではなく、台湾を主体として考える発想が人々の間で定着します。

 一方、民進党の党是である台湾独立が、当面は実現不可能な目標と実感されるようになったのも陳政権時代の特徴です。中国のみならず、米国が陳総統の独立傾向の言動にたびたび不快感を示して米台関係が悪化、台湾は孤立感を深めました。

 陳政権は一度も立法院で多数を取れず不安定な運営が続き、総統ファミリーをはじめ高官の汚職が相次いだことなどから人心を失い、08年の総統選で国民党の馬英九氏に民進党候補が惨敗、2度目の政権交代が導かれます。

初の中台融和が実現

 8年ぶりに政権を奪還した馬総統は、戦後台湾で初めて中国との融和路線を打ち出します。国民党は蒋介石・蒋経国時代は中国の正統性を大陸側と争い、李登輝総統も、中国と台湾は特殊な国と国の関係とする「二国論」を提起するなど、中国と対抗関係にありました。馬総統の対中融和によって国民党は、30~40年代の第二次国共合作以来の共産党との協力関係に立ち返りました。

 馬総統は「一つの中国」を認める「1992年の共通認識(92共識)」を掲げ、中国との間で高官の相互訪問や、航空機・船舶の直航、中国人観光客の台湾観光開放、中国企業による台湾投資開放、国際社会での承認国争奪戦の中止などを相次いで実現させます。これによって台湾は観光業界が中国人商機に沸いたり、農水産物の対中輸出が増えるなど実利を得ました。また、世界保健機関(WHO)総会に38年ぶりに復帰するなど、中国の協力の下で国際社会での存在感も高めました。馬総統は15年11月に習近平中国国家主席との史上初の中台首脳会談を開き、中台融和政策の集大成とします。

ヒマワリ運動で一変

 中台関係は過去に例を見ない安定が実現したものの、矢継ぎ早な対中接近は統一への警戒心を呼び起こし、14年3月に学生グループが立法院を占拠したヒマワリ学生運動を契機に、社会全体に懸念が広がります。馬政権は声望を落とし、16年総統選では国民党候補が大敗。再び民進党の蔡英文政権に交代します。

/date/2017/07/17/21anniversary_2.jpg戒厳令時代、学生運動を指揮していた林佳龍・現台中市長の写真を示す蔡英文総統。民進党政権幹部の多くが、かつて民主化運動をリードした経験を持つ(中央社)

 蔡政権では初めて民進党が多数与党になりました。92共識を認めず、中台対話は途絶え、中国との経済面での協力に支障が出るようになりました。民進党は国民党一党支配への抵抗勢力として出発しており、同党の支持母体である軍人・公務員・教職員(軍公教)の優遇定期預金廃止を含む年金制度改革など、「移行期の正義」の実現に力を入れています。また、反共保守の伝統を持つ国民党に対してリベラル色が強く、「一例一休」による週休2日制の導入や、脱原発など、労働者や環境重視の政策を推進しています。ただ、蔡政権は現時点で年金改革以外で実績を挙げられておらず、経済の停滞が続く中で人気を落としています。

対抗か融和か

 戒厳令解除後の30年を振り返ると、民主化とともに台湾主体意識が高まり、中台関係は「現状維持」を望む考え方が最大公約数として定着したと言えます。30年前は「中国人でもあり、台湾人でもある」との自己認識を持つ人が最も多かったものの、中国人アイデンティティーは後退、統一の主張は少数派になりました。一方、台湾独立も将来的な希望としてはともかく、当面実現は困難ととらえられ、民進党が独立を声高に主張することもなくなりました。

 蔡政権は米日との関係を外交の主軸に置いて、中国の圧力に対抗しています。一方、再び野党となった国民党は、中国との関係悪化は経済発展や社会の安定にマイナスと主張、関係改善を掲げて巻き返しを図っています。

 台湾では今後も中国への対抗か融和か、距離の取り方をめぐってせめぎ合いが続くとみられます。中国が圧力を強める中で、台湾の人々がどのような選択を行っていくのか、日本は直接利害関係のある隣国として注視し続ける必要があるでしょう。

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