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第385回 交通事故で過失がない運転者も現場から逃走してはならない/台湾


ニュース 法律 作成日:2021年6月28日_記事番号:T00096928

知っておこう台湾法

第385回 交通事故で過失がない運転者も現場から逃走してはならない/台湾

 立法院は5月下旬に第三読会で刑法第185条の4「交通事故逃走罪」改正案を可決しました。改正後の条文には「(第1項)動力交通手段を運転して交通事故が発生した場合において、人にけがを負わせて逃走したときは、6月以上5年以下の懲役を科し、人を死亡させまたは人に重傷を負わせて逃走したときは、1年以上7年以下の懲役を科す。(第2項)前項の罪を犯した運転者が、発生した交通事故において人を死傷させたことにつき過失がない場合、その刑を軽減または免除する」と定められています。

 刑法第185条の4の改正のきっかけは以下の通りです。

 本条はもともと「動力交通手段を運転して事故を引き起こし、人を死傷させて逃走した場合、1年以上7年以下の懲役を科す」と定められていました。

 「事故を引き起こした」について、中国語の意味上、運転者が交通事故の発生に対し過失を有する状況を指すと考えるのが一般的ですが、過去の実務の見解では「運転者に過失のない交通事故」についても「事故を引き起こした」と見なされたことにより、実務上、議論を呼ぶ事件が数多く発生していました。

 たとえば、車の運転者・甲が信号待ちをしているとき、交通法規違反のバイクに衝突され、当該バイクの運転者・乙が軽傷を負ったが、甲は自分には全く責任はなく、乙のけがも深刻ではないと判断して現場を立ち去りました。しかし、旧刑法第185条の4および過去の実務上の見解に基づき、裁判所はこのような状況についても、甲に対し少なくとも1年の懲役を科す判決を下さなければなりませんでした。

比例原則に反する

 司法院はこのような不合理な状況を重く見て、大裁判官会議で2019年5月31日に第777号解釈を作成し、旧刑法第185条の4における「事故を引き起こした」という用語は法律の明確性の原則に反しており、また、けがが軽微であるにも関わらず1年以上の懲役を科すことも比例原則に反していると指摘しました。

 そのため、新法では、「事故を引き起こした」という用語は削除され、解釈上、あまり議論とならない「交通事故が発生した」に改正されました。また、新法では、交通事故の結果が軽傷、重傷または死亡に区分され、それぞれ刑の重さが異なります。

 ただし、特に注意すべき点は、新法の規定によれば、過失のない運転者でも交通事故の発生後に現場から逃走した場合には犯罪が成立しますが、その刑を軽減または免除することができることです。

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

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