ニュース 法律 作成日:2016年7月11日_記事番号:T00065163
知っておこう台湾法労働者の遅刻を理由に解雇できるかが問題となった事例がある。以下、台湾高等裁判所2014年重労上字第18号判決の事例を紹介する。
甲は乙社の部長であり、2年余りの勤務においてその業績はとても良く何度も昇給していた。しかし、13年4月に甲は乙社から労働契約の終了を告げる内容証明書簡を受け取った。当該書簡には、甲が頻繁に遅刻し、しかも、たびたび携帯電話による遠隔操作でタイムカードを打刻して会社の管理制度に違反しており、何度注意しても改めないため、法に基づき甲を解雇するという内容であった。
甲はこれを不服として、上記の事実があるとしても、その情状は重大なものではなく、かつ乙社は先に減給、降格などの懲戒手段を用いて処分していないと主張し、乙社に対し解雇の無効確認の訴えを提起した。
本件の第一審では、「甲は何度も遅刻して携帯電話によりタイムカードを打刻しており、これは労働契約で、また、労働者の忠実義務にも違反している」と判断され、甲の敗訴とする判決が下された。
しかし、第二審では、「甲は2年間で78日間遅刻し、回数は多いものの、遅刻時間は毎回5~15分にすぎず、情状は重大ではない。会社はまず労働基準法に基づき処罰し、減給、戒告、降格などの段階的処分を行うことができたはずであり、直接解雇は最後の手段とするという原則に反している」と判断され、甲の勝訴とする判決が下された。なお、最高裁判所が、乙社の上告を棄却したため、甲の勝訴の判決が確定した。
適法に解雇できる場合
一般的に、雇用主が適法に解雇できるのは以下の場合である。
1.労働基準法第11条によれば、以下の事由のいずれかに該当する場合でなければ、雇用主は労働者に対し労働契約の解除を予告してはならない。
・廃業または営業譲渡を行う場合。
・欠損があるまたは操業短縮を行う場合。
・不可抗力による業務の一時停止が1カ月以上に達する場合。
・業務の性質の変更によって労働者数を削減する必要があり、かつ配置換え可能な適当な業務がない場合。
・労働者がその担当職務において確かに不適任である場合。
2.労働基準法第12条によれば、労働者が以下の事由のいずれかに該当する場合、雇用主は予告せずに契約を解除することができる。
・労働契約を締結する際に虚偽の意思表示をし、雇用主を誤信させ、かつ損害を被らせる恐れがある場合。
・雇用主、雇用主の家族、雇用主の代理人または共に働くその他の労働者に対し暴行を加えまたは重大な侮辱を与える行為を行った場合。
・有期懲役以上の刑の確定判決を受け、執行猶予されずまたは罰金刑への変更を許可されなかった場合。
・労働契約または就業規則に違反し、その情状が重大な場合。
・機器、工具、原料、製品もしくはその他雇用主の所有する物品を故意に損耗し、または雇用主の技術上、営業上の秘密を故意に漏えいし、雇用主に損害を被らせた場合。
・正当な理由なく3日間連続して無断欠勤し、または1カ月間の無断欠勤が6日に達した場合。
上記の事由が存在しない場合に、雇用主が労働者を解雇することは、労働基準法違反に該当する。労働基準法は労働条件の最低基準であるため、雇用主による解雇が違法であれば法令の強行・禁止規定に対する違反で、その解雇行為はそもそも無効となり、労働者は違法な解雇から復職までの期間の賃金を要求できるだけではなく、さらに解雇手当も請求できる。
次に、解雇は最後の手段とするという原則に合致していなければならないとされている。すなわち、解雇はこれ以外に方法がないというやむを得ない最後の手段であり、かつ内容が比例原則における必要性の原則に適合していなければならず、その上で初めて雇用主は労働者を適法に解雇できるというものである。本件では乙社による甲の解雇はこの原則に反すると判断されたため、第二審では甲の勝訴とする判決に変更され、また最高裁判所は乙社の上告を棄却したものである。
以上を考慮すれば、労働者を解雇するときの理由によっては、いきなり解雇するのではなく、減給、戒告、降格などの段階的処分を行うことが望ましいと言える。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
尾上由紀弁護士
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