ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第178回 従業員の行為に対する雇用主の連帯賠償責任について


ニュース 法律 作成日:2017年2月20日_記事番号:T00069071

知っておこう台湾法

第178回 従業員の行為に対する雇用主の連帯賠償責任について

 2014年1月、大型トラックの運転手である張が司法の不公平に抗議してトラックを総統府にぶつけ、建物に損害を与えた。張の行為に対し裁判所での審理の結果、刑事責任については、15年に殺人未遂等の罪により懲役6年の刑が確定し、民事責任については今年(17年)1月12日、最高裁判所が「張はその雇用主と連帯して建物修理費233万台湾元を賠償しなければならない」旨の判決を下した。

 民法第188条第1項には「被用者が職務の執行において不法に他人の権利を侵害した場合、使用者は行為者と連帯して損害賠償責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任およびその職務執行の監督において相当の注意を払っていた場合、または相当の注意を払っていても損害が発生していたであろう場合、使用者は賠償責任を負わない」と規定されている。張の事件において、裁判官は、張が総統府にトラックをぶつけた日は本来トラックで輸送予定の日であったため、当日の運転行為は「職務執行行為」に該当すると判断し、張の所属する運送会社は従業員に対する教育訓練が不足しており、従業員を監督する注意義務を果たしていなかったため、張の雇用主は総統府が受けた損害について連帯して賠償責任を負わなければならない旨の判断を行った。

雇用主にも責任

 類似の事案には、コーヒーショップの女性店員である謝が金銭問題により13年に陳夫妻を殺害した重大な犯罪事件がある。この事件の民事部分について、裁判官は、民法第188条第1項に基づき、謝の雇用主(コーヒーショップの店主)が謝と連帯して被害者の家族に631万元を賠償しなければならない旨の判決を下した。

 従業員の故意の犯罪行為について、雇用主が抑制または予防することは難しいため、理論上は、民法第188条第1項ただし書きが適用される余地があるはずである。しかしながら、上記の2つの事例の通り、実務においては、裁判官は通常、被害者が賠償を受けられるよう、雇用主が連帯責任を負わなければならない旨の判決を下している。

 よって、多くの企業は現在、従業員の違法行為についてあらかじめ賠償責任保険に加入し、従業員の違法時における雇用主の賠償リスクを分散させている。外国企業はこの点を参考にすることができる。

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

知っておこう台湾法