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第605回 浮気された場合損害賠償を請求できるのか


ニュース 法律 作成日:2026年2月9日_記事番号:T00126851

知っておこう台湾法

第605回 浮気された場合損害賠償を請求できるのか

 最近、ある奇妙な判決が下されました。その判決は、法制度や各クラスの裁判所で一般的に認められている「配偶者権」を否認したことから、台湾社会に衝撃と批判を巻き起こしています。

■ある裁判官、配偶者権を否定

 本件の概要は次のとおりです。

 台南市の甲というある男性は、2021年に乙という女性と結婚しました。25年1月、乙は高雄に行くと言って出かけたものの、乙の携帯電話の位置情報には台南のモーテルが現れたため、甲は不審に思いました。甲が調べを進めたところ、乙が丙という別の男性と何度も肉体関係を持ち、乙と丙はそればかりか互いを「夫、妻」と呼び合い、親密な行為の動画を撮影することまでしていることを発見しました。甲は、乙と丙の不貞行為によって多大な苦痛を受けたとして、乙と丙を被告とし、100万台湾元を連帯して賠償するよう2人に要求しました。

 通常、台湾では、原告がその配偶者の浮気を証明する具体的な証拠を提出しさえすれば、裁判官は原告が有する配偶者権に基づき、原告勝訴の判決を下し、賠償請求の金額に関してのみ調整を行います。ところが、本件の台南地方法裁判所の裁判官は、乙と丙の間の肉体関係を認定したにもかかわらず、甲の請求を棄却しました。この裁判官は、判決書の中で、あえて1万字以上を費やし、台湾の法律上は「配偶者権」が存在しないことを強調しました。

 その要点は以下のとおりです。

一、この裁判官の考えでは、婚姻は自由な個人間で締結される契約であり、その個人の性的自律権は基本的人権として保障されるべきであり、婚姻を理由に他者によって独占されたり使用されたりするべきではない。

二、「配偶者権」という概念を認めたならば、国が金銭賠償(すなわち慰謝料)を通じて国民の婚姻が円満かどうかを評価することになり、これは人格の尊厳を貶めるだけでなく、「婚姻そのものの殺し屋」となる。

三、現在、司法実務で広く採用されている「慰謝料」制度は、円満な婚姻を追求するための「毒薬」のようなものであり、かえって婚姻を破壊する可能性すらある。

四、台湾は、外見上は文明国のようだが、自由主義の思想基盤が依然として薄弱であり、それどころかまだ「蒙昧(もうまい)の間」または「思想の砂漠」にある。「国が金銭で感情を評価する」ことが侮辱だと気づかないうちは、主体意識がまだ目覚めていない。

■個人的見解を回避するには

 上記の見解は、裁判官個人の特殊な価値観によるものであると言え、各クラスの裁判所の判決や社会通念から逸脱しているため、甲が控訴を提起しさえすれば、当該判決が第二審の高等裁判所によって破棄される可能性は極めて高いです。台湾の民事訴訟法第262条第1項は、「原告は判決が確定する前に、訴えの全部または一部を取り下げることができる。ただし、被告が本案について口頭弁論をすでに行っている場合には、その同意を得なければならない」と規定しています。

 経験豊富な弁護士であれば、自分の事件が奇妙な見解を持つ裁判官に審理され、敗訴の可能性が高いと知った場合、最初の期日の前(口頭弁論の前)に訴訟を取り下げ、改めて訴えを提起します。こうすることで、通常はこのような特異な裁判官を回避することができます。

蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

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