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第167回 AVも著作権保護対象


ニュース 法律 作成日:2014年10月22日_記事番号:T00053366

産業時事の法律講座

第167回 AVも著作権保護対象

 今年2月、知的財産裁判所はいわゆるアダルト動画(以下「AV」)も著作権を享受できるという、画期的な判決を下しました。

 過去、台湾の裁判所は、著作がいわゆるエロスな内容を含む場合、著作権法の保護は受けないとの立場をとってきました。その根拠は「エロスな著作内容は公共の秩序と善良な風俗に違反するため著作権法の保護を受けない」という、最高裁判所が1999年と05年に下した判決中の意見です。つまり、最高裁判所は「既得権益の保障は公序良俗の原則の制限を受ける」という立場をとっていたわけです。

 もちろん、最高裁判所のこのような意見は正しいものではありません。なぜならば、たとえ著作権の成立・行使が公序良俗の原則の制限を受けるとしても、そこから、「エロスな著作は著作権法の保護を受けない」という結論まで推論することはできないからです。

わいせつの定義

 知的財産裁判所はまず「差し押さえられた猥褻(わいせつ)なディスク」の内容が「一般の人が興奮し、性欲を刺激されるに十分なものであり、またそれは単純に人体の美を表現するために女子の乳房や下半身を露出している画像とも異なる。さらには、教育性・医学性のある映像とも一線を画し、その撮影方法は見ているものに羞恥的な心理と険悪感を抱かせ、善良な風俗と性的道徳観念を害するものである」ことを理由に、それらを「猥褻なデータまたは物質」であると判断しました。

 また、中国の古典である「戦国策」の中から、宣太后が、大臣との討論中に、亡くなった国王との性行為を例に挙げるという段落「私と先王がしていた時、先王が太ももを私の上に置いた時、重くてたまらなかった。でも先王が全身で私にのしかかってきた時は、全く重くなかった。なぜなら、その時、私も気持ちよかったから」を引用しました。その上で、このような露骨な表現でも名作に含まれていることからも分かる通り、そもそも、ある表現がエロスかどうかの判断は容易なものではないということを説明しました。

 また判決は、アン・リー監督の著名な映画「色・戒(邦題ラスト、コーション)」や、マドンナ、レディー・ガガなどを例に挙げ、それらにはどれもエロスの要素が含まれているが、台湾社会で広く受け入れられているとした上で、「著作権法は知的創作を保護するもので、道徳・風俗の審査を行わない」ことを説明し、そうでなければ、人民の言論の自由が制限され、憲法の平等原則と、明確性の原則に違反するとしました。

著作者の個性があるか

 そして、著作権法の規定では、「創作性」がある著作は、著作権を享受することができるとした上で、「創作性の程度は、「前例がない」というものである必要はなく、社会通念に照らした上で、当該著作と、すでに存在する著作との間に区別をつけることができるだけの変化が存在し、著作者の個性が表現されていればよい。逆に、著作が、人類の思想・感情と関係なく、著作者の個性が表現されていない場合、創作性があるとは言えない」と判断しました。

 さらに判決は、実況見分の結果を基に、差し押さえられた3枚のAVの内容を述べています。裁判官はそれらの内容を確認した上で、「その表現内容は、エロスとそうではない部分の撮影方法、およびそのストーリーからも、作者の個性と独特性が表現されており、創作性の要件を満たす最低程度の創意がある」とした上で「性交の場面には、全てモザイクが掛けられており、獣姦(じゅうかん)や性器が露出した画面はない。そのため、これらは独創性のある視聴著作であり、わが国の著作権法の保護を受けるべきものである」と判断しました。

除外の明文規定なし

 最高裁判所は過去、公序良俗に違反する著作には著作権がないとの判断を下していますが、しかしその判決には、「わが国の特許法および商標法には、公共の秩序または善良な風俗に対する違反するものは、特許法または商標法の保護を受けないとの明文規定が設けられている。しかし、著作権法にはそのような規定がないことからも、立法者が何らかの意図をもってそれを規定しなかったことは明らかである。このことからも、公共の秩序または善良な風俗に対する違反は、著作権取得に関する消極要件ではなく、エロスを含む著作も著作権法の保護を受ける」というくだりがありました。

著作権の原則

 今回の判決は、3枚のAVについて著作権があることを判断しただけですが、判決の内容からすると、ほかのAVも、同様に著作権を享受することができるでしょう。判決から分かることは

1.裁判所は、モザイクのないAVまたは獣姦などの内容に対して保守的な態度を保っているが、明確な意見を述べているわけではない。

2.今後、著作権者がエロスを含む著作の著作権を主張する場合、当該著作が「創作性」の要件を満たしていることを分析・挙証する必要がある。

 有能な弁護士であれば、これらの原則をもとに、海賊版AVを取り締まるためのSOP(標準作業手順書)を設計し、それらを撃退することができるでしょう。

徐宏昇弁護士事務所

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