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第166回 職務上の発明と特許権の帰属


ニュース 法律 作成日:2014年9月24日_記事番号:T00052855

産業時事の法律講座

第166回 職務上の発明と特許権の帰属

 台湾の特許法では、いわゆる社員が行った「職務上の発明」の特許申請の権利は、会社にあると規定されていることは、皆さんもご存じかと思います。しかし、ある発明が職務上の発明であるかどうかという問題が、知的財産裁判所でとてもよく争われる争議の一つであることはご存じでしょうか?

社員が申請、会社が費用負担した場合

 馬克旦氏はもともと台湾緑牆開発の董事長兼総経理を務めていましたが、2010年に董事長の地位を退きました。11年4月19日、馬氏は台湾の知的財産局と、中国の国家知識産権局に対して「花槽(プランター)」の実用新案を申請し、各々に実用新案を取得しました。その際、これら申請に関する費用と維持費用は全て緑牆が負担しました。12年、緑牆は馬氏のプランターの設計が職務上の発明であることを理由に、馬氏が前述の実用新案を緑牆に譲り渡すことを求めて、台湾の知的財産裁判所に対して訴えを起こしました。

 知的財産裁判所は13年1月に第一審の判決を下し、緑牆の請求を棄却しました。理由は以下の通りです。

1.双方は「合作協議書」と「特許ライセンス契約」を締結しているが、その内容は、馬氏の実用新案について、双方で共にその権利を享受できるのか、それとも馬氏が緑牆にその利用をライセンスしているのか、はっきりしない。

2.2つの実用新案の申請とその維持に関する費用は、全て緑牆が負担している。このことからも、双方の間に「実用新案に関する権利は馬氏が独占享受する」との約定があることが分かる。そしてこのような約定が存在することにより、台湾の特許法における「職務上の発明に関する特許申請の権利は雇用者に帰属する」との規定は排除されることになる。

曖昧な協議書とライセンス契約

 この判決を不服とした緑牆は控訴を行うとともに、請求内容を前述の「合作協議書」と「特許ライセンス契約」に沿ったものとするべく、「2件の実用新案は双方の共有であることの確認を求める」と変更しました。しかし、知的財産裁判所は13年11月に、またしても緑牆の控訴を棄却しました。その理由は以下のようなものでした。

1.緑牆の董事長は過去に新物件の開発に関するアイデアを提供したが、それはあくまでも「自然法則または単純な発想、もしくは建議であり、特許を得るべき技術手段ではない」。そのため、馬氏こそが本実用新案の発明者である。しかし、一方、馬氏の役職は総経理であり、研究開発技術を専門とするものではない。したがって、設計されたプランターは台湾の特許法や、中国の特許法に定義されている「職務上の発明」とはなり得ない。

2.双方が締結している「合作協議書」と「特許ライセンス契約」には、「研究成果は双方で共に享受する」との規定があるが、「研究成果を双方で共に享受するという意味は、ライセンスを行うことでも共有することでもない」。なぜならば、前述の協議書とライセンス契約には、「双方で共に享受するための方式、比率、時間、権利の内容などが明確に記載されていない」。

3.本件における2つの実用新案の申請、維持費用は、共に緑牆が負担している。そして緑牆は、馬氏が単独で、自らの名義でその実用新案を取得したことを知っていた。このことからも、緑牆は馬氏が当該実用新案を単独で申請し、またそれらの権利を持つことに同意していたことが証明できる。

最高裁、知財の判決を破棄

 第二審の判決を不服とした緑牆は最高裁判所に対して上告、最高裁判所は14年7月に原判決を破棄、案件を差し戻しました。その理由は以下のようなものです。

1.知的財産裁判所は、「研究開発の成果は双方で共に享受されるという約定の意味は、当該実用新案権が共有されるという意味ではない」との認定を行ったが、その「契約の解釈は一般常識と異なる」。

2.本案におけるプランターの開発過程は、▽緑牆の董事長が上海で開催された国際博覧会を参観時に「花壁」の写真を撮影▽11年3月に写真を馬氏に渡し、新物件の開発を指示▽馬氏がプランターを設計後、他者に図面化を依頼▽図面完成後、生産と金型の開発に関する商談を開始▽緑牆の費用で実用新案申請──というものであった。このような過程は、双方が契約中に約定している以下の条項に沿ったものである。「甲(馬氏)が乙(緑牆)の資源を利用して研究開発を行った場合、当該研究開発の成果は甲乙双方が共に享受するものとする」。

3.法律は、共有されている特許が、当該特許を共有する一方の権利者によって単独に特許申請される、または第三者の名義で特許が申請されることを禁止していない。

明確な契約でトラブル防止を

 本件の判決からも分かるように、法律には、社員の職務上の発明に関しては、雇用者に特許申請の権利があるとの規定が設けられていますが、会社は社員との間で詳細を記した契約を締結しておいた方がいいでしょう。さもないと、万が一問題が発生した際、最高裁判所から「契約の解釈は一般常識と異なる」とまで評価されてしまった知的財産裁判所に、どのように事実を認定されるか分かったものではありません。

 また、もし本案の最終的な確定判決が、双方は、中国における実用新案を「共有」するという認定をした場合、判決内容をどのように中国での実用新案に対して適用すればいいのでしょう?それはまた別の法律問題です。 

徐宏昇弁護士事務所

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