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第162回 提審法と外国人の人身の自由の保障


ニュース 法律 作成日:2014年7月30日_記事番号:T00051808

産業時事の法律講座

第162回 提審法と外国人の人身の自由の保障

 台湾における「提審」制度は、英国のヘイビアス・コーパス(Writ of Habeas Corpus)制度、いわゆる人身保護令状制度に由来しています。この制度は、人民の人身の自由が警察や行政官によって不当に奪われた際、裁判所の介入を要請することで、行政機関が人民の人身の自由を奪ったことの合法性を裁判所に審査してもらうというもので、「人身の自由を奪うことができるのは裁判所だけ」という理論に基づいた制度です。

 台湾の「提審法」は1935年6月当時の「中華民国」政府によって公布され、46年3月から施行されました。つまり47年12月25日に施行された現行の台湾の憲法である「中華民国憲法」よりも早くから施行されていたわけです。

 かつて、提審法は人身の自由の保障という面では、これといった効果を発していませんでした。その原因は多々ありますが、最も主要な原因は、提審法に基づいて提審を申請できるのは「犯罪の容疑により逮捕された場合」に限られるという、保守的な解釈が裁判所によってなされていたことにあります。過去には少数ですが、外国人や中国人が「収容」された際に提審を申請することを認めた例もありますが、あくまでも例外的な扱いで主流の考え方ではありませんでした。

提審法改正に向かう流れ

 そんな中、09年12月10日、台湾政府は「公民與政治権利国際公約及経済社会文化権利国際公約施行法」を公布しました。これは、66年12月16日に国際連合総会で採択されたいわゆる国際人権規約、すなわち市民的および政治的権利に関する国際規約(自由権規約:International Covenant on Civil and Political Rights)と経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約(社会権規約:International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights)両規約を国内法化した台湾の法律です。

 一方、13年2月の司法院釈字第708号大法官解釈は、「入出国及移民法」に規定されている「收容」は、憲法第8条が保障している「人民の身体の自由」に違反するものであり、違憲であるとの解釈を下しました。また、同年7月の司法院釈字第710号大法官解釈も、「台湾地区與大陸地区人民関係条例」が規定している「收容」は、憲法第8条に違反していると判断しました。しかし、これらの解釈はともに2年の期限を設けて法改正を求め、期限を超えた場合、当該条項は失効するとしただけでした。

 このような状況の下、14年1月8日に前述の提審法が改正(7月8日より施行)され、「犯罪の容疑により逮捕された場合」でなくとも、提審を申請することができるという明文規定が設けられました。改正後の規定によると、行政機関は、裁判所から「提審票」の送達を受けた後、24時間以内に「身体の自由を拘束されている者」を裁判所に移送しなければならず、また裁判所がその釈放を決定した際、その決定に不服を申し立てることはできないと規定しています。

外国人収容、提審申請一度は棄却

 ベトナム人の梅氏蘭(マイ・ティー・ラン)女史は11年3月に台湾に出稼ぎに来た後、居留期間満了後に逃走、14年4月に檳榔(ビンロウ)販売員をしているところを警察に発見され、偽の健康保険証を所持していた容疑で逮捕されました。しかし検察官は勾留を申請しませんでした。これに対して、内政部入出国移民署は「入出国及移民法」の規定に基づき「收容」を申請、6日間の収容期間満了後、期間を60日間延期しました。収容開始当時タイに出張中であった梅氏蘭女史のフィアンセの李君賢氏は、帰国後に事態を知り、桃園地方裁判所に対して提審を申請しました。

 しかし、桃園地方裁判所は審理の後、6月19日に▽提審法は「犯罪の容疑により逮捕された場合」のみに提審を申請できる▽行政法令によると「收容」に対する提審申し立てはできない──ことを理由に、申請を棄却しました。また、裁判所は、決定の中で李君賢氏は「移民署に対して異議を申し立てるべきである」と好意的な示唆までしていました。

 李君賢氏は抗告を行い、台湾高等裁判所は7月4日に桃園地方裁判所の決定を取り消し、案件を桃園地方裁判所に差し戻しました。高等裁判所はその理由の中で、▽自由権規約は既に台湾の国内法となっている▽自由権規約においては「犯罪の容疑により逮捕された場合」のみに提審を申請できると規定されていない▽既に改正されている(当時まだ未施行の)提審法も、提審を申請できる状況を「犯罪の容疑により」逮捕・拘禁された場合のみに限っていない──と判断しました。

 桃園地方裁判所は、案件を再審査した後、14年7月14日に梅氏蘭女史の釈放を決定しました。裁判所は裁定の中で▽7月8日より施行された改正後の提審法は本案に適用される▽入出国及移民法の関連部分についてはいまだ改正が行われていないが、既に74日間も収容されている事実は極めて不合理▽梅氏蘭女史は収容されるまで李君賢氏と同居していた▽梅氏蘭女史は李君賢氏の子どもを自分の子同様にかわいがっていた──と認定した上で、収容の必要はないと判断しました。

改正提審法解釈の前例に

 改正後の提審法の規定では、全ての機関は、人民の自由を奪う際に、提審を申請できることを告知しなければなりません。また、提審は本人またはその他すべての第三者が申請でき、一定の形式もありません。例えば警察に対して「裁判官に会わせろ」と言うだけで、合法に提審を申請したことになります。裁判所も「管轄権がない」ことを理由に申請を棄却することはできません。

 現在「収容」されている、または今後収容される外国人と中国人も本件の決定と同様の解釈を求めることは間違いないでしょう。しかしそれにより、台湾の移民政策や、外国人居留制度などの細分化、専業化が進み、新しい法律領域として今後発展していくことでしょう。

徐宏昇弁護士事務所

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