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第159回 遠雄董事長を勾留する法律上の理由


ニュース 法律 作成日:2014年6月11日_記事番号:T00050843

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第159回 遠雄董事長を勾留する法律上の理由

 2013年末、台湾四大紙の一面に、「自分は『十大悪人』ではない」という広告を掲載したことがある遠雄企業団(ファーグローリー・グループ)の董事長、趙藤雄容疑者が6月2日に勾留されました。

 検察の勾留申請理由によると、この事件は、趙容疑者が同グループ副総経理の魏春雄容疑者とともに桃園県の八徳・合宜住宅(低価格住宅)建設工事の入札をめぐり、蔡仁恵・元台北科技大学教授を通じて桃園県副県長(当時)の葉世文容疑者に1,600万台湾元を渡し、落札したというものです。趙容疑者らは「贈賄によって公務員に職務に反した行為を行わせた」罪(贈賄罪)などに問われており、趙容疑者自身も容疑を認めています。しかし、裁判所は「証拠を隠滅・改ざんし、また口裏合わせを行う恐れがある」と判断し、趙容疑者の勾留を認めました。

 主な理由は以下のとおりです:

1.裁判所での第1回の尋問の際、趙容疑者の行った供述と、魏容疑者や証人らとの供述では明らかな食い違いが見られたが、5月31日に保釈された後の6月2日の尋問では前回の供述を覆し、また魏容疑者の供述とも完全に一致したものとなっており、口裏を合わせたことは明白である。

2.遠雄グループの従業員が、6月1日午前に保存期間内の会計資料や伝票などの処分を外部処理業者に委託したが、検察が水際でそれを回避、差し押さえた。このことからも趙容疑者は保釈後、部下に対して証拠隠滅を指示したことが証明できる。

3.本案の他の容疑者が「趙容疑者は葉容疑者に対して『他の入札案でも贈賄行為を行っていた』」と供述しているため、検察は当該部分に対しても、共犯、内部関係、金の流れなどについて捜査を行う必要がある。もし趙容疑者が勾留されない場合、同様に証拠隠滅・口裏合わせなどを行う可能性がある。

 また、台湾高等裁判所は、勾留に対する判断を記した裁定書の中で以下のような説明も行っています:「八徳・合宜住宅案は政府の入札案件であり、落札者は評議会の議決によって決定される。言い換えれば、「特定の人物が『落札者』を決める」ことは許されない。しかし葉元副県長と趙容疑者は遠雄グループが落札することで合意していた。このことからも葉元副県長の行った「協力」はその職務に反したものであったことが明らかである。

弱い勾留理由

 さて、一見問題の無いように見えるこの勾留理由ですが、実は以下のような問題点が見え隠れしています:
1.高等裁判所は「特定の人物が『落札者』を決めることは許されない」とした上で、「特定の人物がそれを決める」ことは特例であり、違法であると判断しました。さて、本案の場合、違法行為は贈賄を受けた副県長の他、副県長の指示を受けて動いたとされる審議委員と、県庁の公務員によって行われたことになります。しかし、検察は前述の裁定書の中では、「副県長が全てをコントロールして遠雄グループに落札させた」ということを証明する証拠を何も挙げていません。もし副県長に落札者を決定する「実力」がなかったとした場合、「職務違反」行為とはなりません。

2.検察は容疑者らが証拠隠滅と口裏合わせを行ったことは証明できました。しかし、今回「証拠隠滅と口裏合わせを行った」からといって、今後も「証拠隠滅と口裏合わせを行う」とは限りません。また、捜査の実務から見れば、証人の供述は「主要な証拠」ではありませんし、遠雄グループが処分しようとした「証拠」にしても、本当に本案と関係があるのかについてさらなる調査が必要です。どちらにせよ、検察はすでに遠雄グループに対して立ち入り捜査を行っています。遠雄グループがこれ以上の「証拠隠滅」を行うことは可能なのでしょうか?

3.検察は八徳・合宜住宅案についての捜査のみを行っています。もし現在の捜査中に別件の容疑が浮かべば、捜査範囲を広げる必要がありますが、「本案の一部の容疑者が趙容疑者が他にもやったと供述している」だけでは、勾留を行う理由としては弱いため、勾留を行うための正当な理由が別途必要となります。

 このような観点から、本案における前述の勾留理由は法律上の理由としては弱いものと言えます。

 趙容疑者の行為に関しては、過去にも多くのメディアで異なる評価が下されてきました。6月4日発売の経済誌「商業週刊」では、遠雄グループは「工業地区に豪邸を建てている。台北文化体育園区(通称・台北ドーム)案では、本来の建設予定地の3分の2にホテルとショッピングモールを建設している」と批判されています。趙容疑者が勾留されたことに対して異議の声を上げた人もほぼいませんでした。しかし、業界の権力者で資金力が豊富な企業人を勾留するには、もっと確固とした法律上の理由が必要でしょう。

 さて、本案から分かることがもう一つあります。重大案件の調査段階では、関係者の通信は盗聴されているということです。遠雄グループはこのことを知らなかったのでしょう。おかげで検察は、被告らが証拠隠滅・口裏合わせを行うことを察知することができたのです。 

徐宏昇弁護士事務所

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