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第154回 王金平立法院長の一審判決に関する一考察


ニュース 法律 作成日:2014年3月26日_記事番号:T00049367

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第154回 王金平立法院長の一審判決に関する一考察

 王金平立法院長が中国国民党の党籍の確認を求めた訴訟の判決が2014年3月19日に台北地方裁判所で下され、判決は司法院のホームページで即日公開されました。

 この判決の中で裁判官は、国民党が王氏の国民党党籍剝奪が非合法であることの理由を詳細に述べている一方、王氏が違法な司法介入をしたのか、王氏の行為が「党の名誉を損なった」のか、さらには処罰の方式は党籍剝奪で妥当だったのかなどについては一切触れず、「司法消極主義」に基づいた謙抑的な態度で対応をしています。

 「中国国民党党章(党規)」第35条第1項第2号の規定によると、党員が「党の名誉を損なう」行為を行った場合、党紀に違反したことになります。また第36条の規定によると、党紀違反に対する処罰方法は▽訓告▽党員職務の停止▽党員権利の停止▽党籍剝奪▽党籍抹消──の5種がありますが、どのような行為に対してどのような処罰方式が取られるのかについては、規定が設けられていません。さらには、同じく党員としての身分を永久に失うことになる党籍剝奪と党籍抹消の違いについて、何らの定義も設けられていません。

 「党章」の規定のみに基づいて考えると、党籍剝奪と党籍抹消の主な違いはそのプロセスにあるようです。党籍剝奪は「中央考核紀律委員会の議決後執行される」のに対し、党籍抹消は「中央考核紀律委員会の議決を経た後に、中央常務委員会の承認を経た上で執行される」ことになっています。後者の場合、処罰を受けた当事者が処罰に対して不服のある場合、救済の道が設けられています。また、「中央考核紀律委員会」の委員は秘書長の提言により党首が認定するのに対し、「中央常務委員会」の委員は党員による選挙で選出されるという違いがあります。

 このような制度設計から見る限り、党籍剝奪が党首の行う決定であるのに対し、党籍抹消は党の決定であると考えるのが現実に則しているでしょう。

 そして裁判所もおそらくはこのような考えに基づいて、「党首個人の決定に基づいて、党員がその党籍を永久に失うのは、法の規範に反するものである」とした上で、「中央考核紀律委員会が王氏の党籍を剝奪する決定をしたことは、政治的自治の範囲内のものではなく、他者の権利を違法に剝奪するものであり、無効である」と判断したのでしょう。

法律違反で無効

 さらに台北地方裁判所は、▽民法には、法人構成員の「除名」は、法人総会に出席した構成員の半数以上の賛成をもってそれを行うことができる旨の規定が設けられている。▽さらに、人民団体法には「除名」は会員の半数以上が出席している会員総会で出席者の3分の2以上の同意を持ってそれを行うという旨の規定がある。▽立法者はこのような制度設計によって社員や会員、構成員の地位を保証していると考えるべきである。▽従って、これらの条件を下回る内容の会員除名の制度規定は、法律の強制規定に違反しているため、無効である──と判断しました。

 また、裁判所は判決の中で「被告(中国国民党)は中央考紀会において係争処分を議決し、原告の党籍を剝奪する決定をした。つまり、人民団体法において、会員総会または会員代表総会において議決がなされなければならない旨の規定がある「会員の除名」という決定を、中央考紀会において議決しているわけである。しかし、中央考紀会には、被告の党員の意思または民意を反映している基礎が存在しない。もし、中央考紀会の組成およびその選出が、党員総会または党員代表総会の意思に基づいたものでないのであれば、法に党員総会または党員代表総会の権限であるとの規定のある権利を、どのようにして行使することができるのであろうか。さらに、その議決の過程と結果について、党員総会または党員代表総会が、監督と追認、議決内容の変更を行うことができないというに至っては、政党自治または党章の規定であるという理由のみによって、法律の強制規定を排除することは出来ないと考えるのが妥当である」と、強く説明しています。

サービス協定の審査主張を抑圧か

 一部の評論家は、国民党が王氏の党籍を剝奪したのは、王氏が今話題となっている「海峡両岸服務貿易協議(服貿、中台サービス貿易協定)」の条文を精査することを主張したことに対する「見せしめ」を行うことで、中台サービス貿易協定の批准が円滑に行われるようにとの意図があったと分析しています。しかし台北地方裁判所の裁判官は今回の判決の中で、高度な法学的態度に基づいて、政治にも風評にも屈しない強い意志を示しました。もし、一般の案件においても、より多くの裁判官がより高度な法学的態度により、法律に基づいた審理を行うことができれば、台湾の司法が市民に信頼される日も来るのかもしれません。

徐宏昇弁護士事務所

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