ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第153回 競業禁止と営業秘密


ニュース 法律 作成日:2014年3月12日_記事番号:T00049093

産業時事の法律講座

第153回 競業禁止と営業秘密

 鴻海精密工業(以下、鴻海)が、元職員である黄大偉氏と曹世峰氏に対して起こした「競業禁止(競争関係にある業種への転職禁止)」訴訟に対して、2014年2月25日、台湾高等法院は以下のような判決を下しました。

 黄、曹の両者は、同年3月3日より前に、鴻海での就業中に知り得たアップルのスマートフォン、「iPhone5」シリーズに採用の「ライトニングケーブル」の研究開発(R&D)および生産に関する営業秘密を用いて、台湾、香港または中国で、同製品と同様、または類似した製品の生産やR&D、経営に従事してはならない。

 一方、高等法院は鴻海が求めた以下の請求を全て退けました。

 ▽黄、曹の両者が所属する鴻海のライバルメーカー、米ジェイビル・サーキット傘下の緑点高新科技(ジェイビル・グリーンポイント)やその関係企業からの即時離職▽両者による台湾、香港または中国でのコネクターまたはケーブルに関する競業事業への従事または経営の禁止▽黄が766万9,000台湾元、曹が100万1,500元を会社へ支払うこと──。

 しかし、この判決のわずか1週間後が3月4日だったことを考えると、鴻海の勝訴には何の意味もありません。

 判決によると、黄と曹はそれぞれ99年と07年に鴻海に入社。黄の離職時の職務はインターネット接続製品事業の専門部長で、曹は入社後アップル社の「コネクター、ケーブル製品およびケーブルパッケージ」の専門エンジニアを務めたことがありました。また、2人は共に「知的財産権約定書」にサインをしており、離職後2年以内は直接的、間接的にかかわらず、鴻海の所在国および地域において、鴻海での業務またはそれに関連する事務と競争関係にあるものに従事してはならないことに同意しており、対価として鴻海は既に「競業禁止補償費」を支払っていました。最終的に2人は11年末に休職し、休職期間満了後も復職しなかったため、12年3月に契約を終了しました。

競業禁止に関する訴訟のはずが

 しかし、鴻海は、2人が労働契約終了時点で既に競争他社であるグリーンポイントに就業していたことを発見しました。同社は鴻海の競争相手であるため、鴻海は、2人が前述の競業禁止に関する約定に違反していると判断し、本案訴訟に踏み切りました。

 鴻海が引用した約定書の内容からすると、本案訴訟は「競業禁止」に関する請求ですが、台湾高等法院は、鴻海は既に黄に対しては2年間にわたり毎月15万元、曹に対しても同様に毎月2万元の「競業禁止補償費」を支払っています。そのため、鴻海には2人に競業禁止の約定を順守することを求める権利があります。しかし、禁止の範囲が広過ぎ、被雇用者の離職後の就職が困難となることは、被雇用者にとっては公平原則に則したものであるとは言い難いとし、禁止の範囲を2人が知り得たライトニングケーブルのR&D、および生産に関連した営業秘密と限定した上で、「(2人が)離職後、原告(鴻海)の競合他社に就職した際に、前述の営業秘密を不当に漏らすことで原告の利益に損害を与えた」と認定しました。

 また、鴻海が2人に対して離職と賠償を求めた部分に関して、高等法院は、鴻海は黄がグリーンポイントまたはその他の競合他社に就業していたことを証明できる証拠がないと指摘。曹に関しては、11年12月2日よりグリーンポイント名義で労働保険に加入し、13年4月1日に雇用関係が終了しているため、同約定への違反は明白だが、判決時には既に離職している上、ライトニングケーブルのR&D、生産に関する営業秘密を漏らしたことを鴻海が証明することができないことなどから、これらの主張を退けました。

裁判所の判決に矛盾

 本判決は、台湾の裁判所の「競業禁止」に対する概念に重大な混交があることを露見したものです。そもそも、競業禁止条項とは、雇用者が被雇用者の在職時と離職後の就業の自由を制限し、その埋め合わせとして本案における「競業禁止補償費」のような補償を行うことを指しています。営業秘密とは一種の知的財産権であり、法律の保護を受けるものです。営業秘密を漏らす行為に対しては、刑事責任が問われることもあります。

 高等法院は本案における双方の競業禁止約定は有効であり、また被告ら2人はそれぞれ「一般的な生活を営むには十分な」補償金を受け取っていると判断したにもかかわらず、一方で、被告人らはライトニングケーブルの生産またはR&Dに関する営業秘密を漏らさなければよい、というのは、判決理由として矛盾があります。

近い将来再び争点に

 また、たとえ被告ら2人の「競業禁止」期間が既に満了していたとしても、2人が約定に違反していることが明らかであるならば、鴻海は2人の離職を求めることで権利の保護を行うことができてもいいはずですが、それができないとしたのはなぜなのでしょう?本案はこの点についての検討を行っていません。この問題は、同種の競業禁止の案件において非常に重要なポイントとなるもので、近い将来、本案またはその他の関連案件において必ず争点となるものです。 

徐宏昇弁護士事務所

TEL:02-2393-5620 
FAX:02-2321-3280
MAIL:hubert@hiteklaw.tw

産業時事の法律講座