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第148回 オンラインゲームのプライベートサーバー


ニュース 法律 作成日:2013年12月25日_記事番号:T00047804

産業時事の法律講座

第148回 オンラインゲームのプライベートサーバー

 オンラインゲームにはオフィシャルサイトの他に、プライベートサーバーが存在することは、皆さんもご存知のとおりです。オフィシャルサイトとはオンラインゲームの開発業者、またはその代理業者によって架設され、利用者にオンライン上でのゲームサービスを提供するサイトで、主な収入源は、利用者が購入するログイン時間数の料金と、ゲーム内で使用する有料アイテムなどの販売料金です。

 一方、プライベートサーバーは正式なライセンスを受けていない第三者によって架設されています。通常は中国に架設されるか、または中国によってコントロールされており、比較的廉価な料金、場合によっては無料でオンラインゲームを遊ぶことができる他、低価格で有料アイテムを購入できることから、消費者を引き付けています。

憎きプライベートサーバー

 プライベートサーバーはオフィシャルサイトから消費者を奪っているため、オフィシャルサイトの運営業者にとっては憎んでも憎み切れない存在となっています。

 知的財産裁判所の認定によると、プライベートサーバーの架設には、オフィシャルサイトと同様のゲームソフトウエアを自らのサーバー内に設置し、ゲーム記録データベースを提供することで、消費者はサーバーへ接続し、ゲームをすることが可能になり、その経歴、成績を記録できます。

 また、プライベートサーバー内に設置するゲームソフトウエアのプログラムは、書き換えを行い、有料アイテムやポイント交換などに関するゲーム内の規則を調整する必要があります。さらに、ユーザー端末上のソフトウエアは通常は無料ですが、正式版のユーザー端末用のソフトウエアに含まれている「ログインショートカット」はオフィシャルサイトへのIPアドレスへつながるようになっています。消費者が正式版を自らの端末にインストールすると、オフィシャルサイトにしか接続することができません。そのため、プライベートサーバー業者は、前述のものとは別の「ログインショートカットファイル(パッチファイル、中国語・補丁)」を提供し、消費者をプライベートサーバーに導いています。

 2009年5月、内政部警政署刑事警察局は、台中市豊原にあるプライベートサーバーを捜索しました。警察はそこで、何成煌被告とその前妻の陳佩琳被告、弟の何博軒被告の3人が、中国在住でオンラインゲームの「Luna Online Game」と「天堂Ⅱ」のプライベートサーバーを経営していた郭冠君被告に対して銀行口座を提供し、料金回収後に郭被告に対して振り込みを行っていたことを突き止めました。

 第一審の台中地方裁判所は、何成煌被告ら3人と郭被告は「共犯」であると認定、何成煌被告と陳被告には「販売の目的で他者の著作を複製(ゲームソフトのプログラムをプライベートサーバー内に設置した)」および「他者の著作を改変(他者のログインショートカットファイルを変更した)」の2つの罪で、何成煌被告に懲役1年2月、陳被告には懲役10月、何博軒被告には複製罪で懲役4月と、3人全員に有罪判決を下しました。これに対して検察、被告人らは共に控訴しました。

難しい証明

 第二審の知的財産裁判所は審理の結果、▽本件の告訴人は関連ゲームの「繁体中国語版」の独占的ライセンスを受けているが、ゲームソフトのプログラムは台湾だけに存在するわけではなく、中国や米国などにも存在している。そのため、被告人のプライベートサーバー内のゲームソフトのプログラムの出どころが告訴人のサーバーであることは証明することができない▽被告人のプライベートサーバー上のゲームは全て繁体中国語のインターフェースだが、このような状況は、ユーザーのダウンロードしたゲーム設定のパラメーターで決定されるものであるから、被告人らが告訴人のサーバーからゲームソフトのプログラムを取得したことは証明できない──とし、「ゲームソフトのプログラムの複製」に関する罪については無罪と判断しました。

 また、「ログインショートカット」については、プライベートサーバー業者は、IPアドレスのみを変更することで、消費者をプライベートサーバーに導いていたものの、IPアドレスそのものはインターネット接続業者(ISP)から提供される数字にすぎず、「著作」ではないため、「他者のログインショートカットファイルを変更した」罪に関しても無罪と判断しました。

 これに対して検察が上告した結果、最高裁判所は13年11月28日に原判決を破棄し、全案は知財裁に差し戻されることになりました。最高裁の判断は以下のとおりです。

1.知財裁が告訴人に告訴権があるかどうかを疑うのであれば、判断するべきは「不受理」であり、「無罪」を判決するべきではない。

2.「複製元がどこであるか」ということは、「複製罪」の構成に何らの影響も及ぼさない。なぜならば、「当該ゲームソフトのプログラムを告訴人のライセンス無しに複製することは告訴人が専属的ライセンスを持つ著作権の侵害となる」ためである。

 本案はハイテク関連の著作権侵害の2つの特徴を見事に表しています。

1.判決の記載から見る限り、被告人のプライベートサーバーは台湾に架設されているが、本案は被告人のサーバーを差し押さえておらず、また被告人のサーバー内のゲームソフトのプログラムに対して分析・鑑定を行っていません。検察の提出した証拠は主にホームページの内容だけで、より詳細な資料を裁判所に提出できていません。しかし、事実上、台湾の警察または検察は、告訴人が弁護士とエンジニアと共に差し押さえたサーバー内のコンピュータープログラムに対して分析・鑑定を行い、分析結果を提出することを十分に許容しています。権利者はこの点を十分に活用すべきです。

2.サイトを中国に設置するまたは中国のコントロール下に置くという権利侵害の形態に対しては、今のところ台湾の警察、検察ともに有効な対策はありません。これこそが政府が中国と優先的に話し合いをし、処理しなければならない課題です。

徐宏昇弁護士事務所

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