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第145回 特許権者は自らの特許を侵害できない


ニュース 法律 作成日:2013年10月23日_記事番号:T00046550

産業時事の法律講座

第145回 特許権者は自らの特許を侵害できない

 「工研醋」で知られる台湾最大の食酢メーカー「大安工研食品工廠股份有限公司」(以下「工研」)で兄弟同士の権利闘争が発生しました。工研創始者である許万得氏の六男であり工研の董事(役員)でもある許駿発氏(以下「許氏」)が知的財産裁判所に対して、特許権の共有者である工研を特許権侵害で訴えました。知的財産裁判所は9月26日、「特許権者は自らの特許権を侵害できない」ことを理由に、許氏敗訴の判決を下しました。

共同申請人に賠償請求

 問題となっている特許は、許氏が1988年に特許申請した「自動化半固態醱酵法及其裝置以製造具有古法釀造特質的米醋及米酒(自動化された半固体発酵法とその装置により昔ながらの方法で醸造する特質の米酢と米酒)」というものです。「昔ながらの方法で醸造する特質の米酒」とは、台湾の「紹興酒」、黃酒(ホアンチュウ)のことです。黃酒は醸造の過程で麦麹を使うため、通常の透明な米酒とは異なる色がつき、また麦麹に含まれるタンパク質が独特の香りを醸し出します。本件特許のポイントは、このような黄酒を自動的に、大量に生産する技術とその醸造樽(たる)の構造でした。

 許氏は特許申請の際、工研を共同申請人としましたが、特許が失効(08年)した後で、工研が本件特許を利用したことに対する損害賠償を求める訴えを知的財産裁判所に対して起こしました。原告である許氏の主張は、土地や物品の共有と同様、他の共有者の同意を得ずに行われた共有物の使用により、他の共有者が当該共有物を使用できなくなったため、損害を受けたというものでした。

 これに対する工研の答弁は、▽本件特許は60年代に台湾煙酒公売局(現在の台湾煙酒公司)が作成した「紹興酒」ハンドブック内に記載されていた方法をまねたものである▽原告の鑑定報告書では被告が本件特許の方法と装置を使用したことを証明することはできない▽原告は工研の役員で毎年多額の役員報酬を受領しているが、本件特許に対してこれまで一度も異議を唱えたことはなかったことから、被告が本件特許を使用することに同意していたと言える▽特許権は土地や物品とは異なり、共有者の一人が特許権を使用したとしても、他の共有者がそれを使用することには何らの影響も発生しない──というものでした。

 知的財産裁判所の第一審判決は、原告の提出した鑑定報告書では被告が本件特許の方法と装置を使用し、米酢を製造したことを証明することはできないと認定し、許氏の主張を退けました。その後、許氏は控訴、知的財産裁判所第二審は以下のような判断を下しました。

1. 経済部知的財産局13年版「特許審査基準」第5−1−2頁に「特許無効審判の請求の本質は公衆審査制度である。公衆審査制度との制度上の整合性を保つため、特許権者自らが、自らの特許に対して無効審判を申請することはできない」という規定がある。

2. 無形財産権といえども、通常は何らかの有体物に付着・結合している場合が多いことは確かであるが、その本質は「無形」であることから、当該無形財産権の使用に際して、一般の物権との間で問題が発生しないのであれば、多数の使用者が同時に使用することができる。

3. 専利法(特許法)の目的は、特許権者に一定期間の排他的権利を付与することで、当該発明とその成果を公開させ、公衆にその内容を享受させることで、社会の進歩を促進しようというものである。そのため、専利法は発明者に対してその発明を公開することを奨励する一方、その利用者に対して一定の責任を負わせている。すると、特許権者が自らの特許を実施するだけでは、特許権の目的である「技術の拡散」にはならず、また他者の発明を使用することにもならないため、「自らの特許の使用」は特許制度の規制の範囲外にある。従って、特許権者が自らの特許を実施する際に権利金を支払う必要はない。

 本案件は、(1)共有特許権者が当該特許を利用する際、他の特許権者に対して報酬を支払う必要はない(2)特許権者は自らの特許を侵害できないため、訴訟において特許無効を主張することはできない──という点について、知的財産裁判所が初めて判決による明確な判断を下したものです。本件判決の見解は参考にするべきものがあるでしょう。 

徐宏昇弁護士事務所

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