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第147回 夫婦関係に類似する関係


ニュース 法律 作成日:2013年12月11日_記事番号:T00047509

産業時事の法律講座

第147回 夫婦関係に類似する関係

 台湾では、家族形態の多元化について盛り込まれたいわゆる「多元成家法案(多元化家庭法案)」に関する議論が大きな話題になっています。反対派は、もし家庭の多元化を許せば、家庭制度とその価値の崩壊を招くと主張しています。

 法案で最も大きな注目を集めているのは「伴侶(パートナー)制度」ですが、立法院では「同性結婚」のみを認める方向で審議が進められており、伴侶制度に関する条文は含まれていません。

事実上の婚姻関係

 この「伴侶」という関係については、男女が長期にわたる同居生活を営み、子供まで産んだが結婚はしていないというような、いわゆる「同居」関係が一般には最も多く、法律上は「事実上の婚姻関係」(common law marriage)と呼ばれています。では、伴侶制度が法律上明文化されていない台湾で、このような関係は、実際に法律上どのような地位を持つのか、多くの人の関心が集まるところです。

 台湾の最高裁判所は2006年8月に、被告、弘野富夫氏(日本人)と、原告の黃金玉女史(台湾人)間の事実婚についての判決を下しています。裁判所の認定した事実関係は以下のとおりです。

 ▽被告は台湾名を「楊耿富」といい、日本には別の配偶者がいた▽両者は87年に日本で知り合い、同居を始め、1年後に一緒に台湾へ渡り生活を始めた▽被告は原告のために台湾で不動産を購入したが登録名義は被告となっていた▽2人の同居生活は97年まで続き、被告はその後も00年まで、原告に対して生活費を払い続けた▽期間中、原告は被告の寝たきりの母親の介護を5年間続けた他、母親が亡くなった際には嫁として葬儀にも参加し、喪に服した▽被告の日本における配偶者は台湾の葬儀に参加しなかった▽周囲の人間は皆、原告を「楊太太(楊さんの奥さん)」と呼んでいた──。

 01年1月、被告は2人の住居から原告の立ち退きを要求する訴えを起こし、原告の敗訴となりました。原告は引っ越しましたが04年、被告に対して、扶養費(離婚時慰謝料)650万台湾元の支払いを要求する訴えを起こしました。

 台北地方裁判所は05年3月の判決で「双方は共同生活を送っていた事実があるだけでなく、被告においては原告を台湾での配偶者とする合意があったのであり、社会一般も双方を夫婦関係と認めていたことからも、双方の間には夫婦関係に類似した結合関係があったことは明らかである」と事実関係を認めましたが、被告に対しては月5,000元の扶養費を1年間、計6万元支払うことを命じただけにとどまりました。その後、原告・被告双方が控訴した結果、台湾高等裁判所は、被告に対して50万元の扶養費の支払いを命じた一方、被告の控訴を棄却しました。原告は上告しましたが、最高裁判所は06年8月に訴えを棄却、全案件が確定しました。

婚姻関係の有無と法的責任

 台湾高等裁判所は、その判決の中で特別に以下のような説明を行っています。「双方当事者間には夫婦関係に類似する結合関係が存在し、それは公序良俗に違反するものであった。しかし、本件扶養費の請求は、夫婦関係に類似した結合関係が終了し、正常なる倫理的秩序が回復されたことにより行われた金銭の支払いの請求である。その意味するところは、前述のような関係が終了したことにより、生活の維持が困難となった一方、当事者に対して、他方当事者からの一定程度の補助である。従って、このような金銭の支払いそのものについては公序良俗上の問題は発生しない」。

 本案件中、一、二審判決は、共に以下のような最高裁判所が44年に下した「男性と女性の間に存在する夫婦に類似する結合関係は、双方がそれを自由に終了することができるが、男性側に正当な理由のない終了、または女性側が男性側に責のある事由により当該関係が終了されたことにより、女性側の生活維持が困難となった場合、女性側は男性側に対して相当額の扶養費の賠償を請求することができる」という判例を根拠としていました。

 また、この事実上の婚姻については、普通裁判所での討論だけでなく、いわゆる「大法官会議」においても08年に第647号憲法解釈がなされています。当該解釈は、遺産および贈与税法における「法律上の婚姻関係にある配偶者相互間の贈与について」のみ「贈与税を課さない規定」は違憲ではないが、立法機関は「社会の変遷と文化の発展を斟酌(しんしゃく)し」、「双方が主観上、婚姻における共同生活を送る意思を持ち、客観的にも共同生活の事実がある配偶者ではない異性の伴侶」に対しても、「適度な法律上の保証を与える」よう、努力すべきであるとしています。

 以上のことからも、台湾の法律には明文規定のない「婚姻関係にない同居状態の伴侶間」にも、相当程度の法律上の責任があることが分かります。しかし、現在のところ、裁判所は「一夫一妻」を基本的な立場としており、現段階では、将来的にそれが変わることはまず無いでしょう。

徐宏昇弁護士事務所

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