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第146回 農業科学技術と農業政策


ニュース 法律 作成日:2013年11月13日_記事番号:T00046963

産業時事の法律講座

第146回 農業科学技術と農業政策

 農業技術の国際基因科技(国際基因、台中市)は1999年12月、中央研究院(中研院)と中研院の研究員、余淑美女史が研究開発(R&D)した「植物生産植酸酵素(フィターゼ)」技術を国際基因が使用することに関する「技術授権契約書」を締結し、中研院に対して600万台湾元の権利金と国際基因の株式15万株を支払いました。

 余氏は行政院国家科学委員会(国科会)の研究費支援を得て93年に植物DNAの移植技術を応用し、稲の細胞と種を培養することでバイオタンパク質を作ることに世界で初めて成功。世界各地の特許を取得していました。

 つまり、前記のライセンス技術の中には、国科会の補助を受けて行われた研究成果が含まれていたため、国際基因は00年7月に国科会との間でも「技術移転合意契約」を締結しました。国科会は国際基因に対して権利をライセンスし、国際基因はその見返りとして現金で500万元と国際基因の株式15万株を支払いました。

 国際基因は03年、フィターゼのDNAを導入した稲の開発に成功。行政院農業委員会(農委会)に対して、その生産と販売の許可を申請しました。

 農委会の基因転殖植物審議委員会は06年3月、農委会農業試験所の評価報告書を根拠に、「稲(米)は台湾の主食であるため、一般の稲との間でDNAの混合が発生した場合、生態系の安全に影響を及ぼすだけでなく、関連産業に多大な影響を及ぼす。そのため、DNA移植技術を施した稲を植えることには相当のリスクがあると判断する」と審決し、国際基因の申請を退けました。これに対して国際基因は訴願を提起しましたが、行政院はそれを棄却。台湾での発展と販売の可能性を否定しました。

生産販売不可、賠償請求も棄却

 国際基因は、中研院との技術授権契約書、および国科会との技術移転合意契約は共に「給付不能(契約義務の履行が不可能な)契約」のため、無効であると主張。余氏、中研院および国科会に権利金、株価、研究開発費などに相当する賠償金計7,636万6,353元を求める訴えを台北高等行政裁判所に提起しました。台北高等行政裁判所は11年7月、本案は単なる民事事件であることを理由に、本案を台湾台北地方裁判所に移管しました。

 その後、国際基因は請求額を大幅に縮小し、ライセンス費用と権利金計1,100万元の返却のみを求めましたが、台北地方裁判所は12年7月、国際基因の敗訴を判決。それに対し国際基因は知的財産裁判所に控訴しましたが、それも13年6月に棄却され、最高裁判所に対する上告も今年10月24日に棄却されたことで、本案は確定しました。

 最高裁判所の判決は以下のように述べています。

1. 技術授権契約書第8条および技術移転合意契約第7条第1項にはそれぞれ、中研院と国科会はライセンスまたは移転した技術に「合用性と商品化の可能性」があることを保証するものではないという趣旨の規約がある。これにのっとれば、中研院と国科会の義務には国際基因による当該技術を使用した生産および販売を保証することまでは含まれない。

2. また前述の規定は、それぞれにおいて公平を失した点はなく、有効な規約である。

3. たとえ、本件ライセンス技術の製品化・市場流通は、法令の制限によりできないとしても、そのことから中研院、余氏および国科会のライセンス・技術移転義務が履行不可能であるとはいえない。

4. 国際基因が支払ったライセンス費用と権利金は、当該技術のライセンスと移転そのものに対して支払われた対価であり、当該技術が後日、商品化され、市場に流通することとは何らの対価関係もない。

 最高裁判所は、中研院と国科会がライセンスまたは移転した技術にはライセンスまたは移転することができたと認定し、その根拠もあることを示しています。

 しかし、メーカーがライセンスまたは移転を望む目的は、研究や試験のためではなく、製品の生産にあります。政府機関であり、先端技術の開発に没頭する中研院と国科会は、同じく政府機関である農委会が先端バイオ技術の製品化に対して態度を保留している現状で、そのような技術のライセンスまたは移転を早々と行ったことに対して責任を負わなくていいのでしょうか?検討が必要な問題です。

法律上のリスク確認を

 メーカーの立場からすると、先端技術イコール高利益となるわけですが、先端技術を利用する際には、同時に法律上のリスクも調べることをお勧めします。

 筆者が最近扱った案件では、筆者の顧客が国立の研究機関から技術ライセンスを受ける際、当該技術の核心をなす特許は、実は他の機関の教授が持っていることが判明。顧客は計画を取りやめ、国際基因の轍(てつ)を踏まずに済みました。

徐宏昇弁護士事務所

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