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第144回 盗聴の法律問題


ニュース 法律 作成日:2013年10月9日_記事番号:T00046309

産業時事の法律講座

第144回 盗聴の法律問題

 台湾では最近、「九月政争」が起き、それに関連して、最高検察署の「特別偵査組」が立法院長の電話を盗聴(以下、合法な場合は「通信内容の聴取」、違法なものを「盗聴」)していた問題が各界での話題となり、批判を呼んでいます。では、盗聴が犯している法律問題とは一体どのようなものなのか、残念ながらこれについて議論している人はあまりいません。

 台湾の最高裁判所は2013年9月18日に下した判決の中で、盗聴が犯している可能性がある法律について、参考となる意見を述べています。

 この判決は、警察と徵信業者(日本の興信所または探偵に相当。以下「興信所」)が違法に結託し、興信所が警察に特定人物の「通信記録」の入手を依頼し、またその通信内容を盗聴するように委託したことに関するものです。委託を受けた警察は、通信記録を入手し、盗聴を行う対象となる電話番号を、別件での捜査の対象の電話番号リストの中に紛れ込ませ、電話会社から通信記録を入手しました。当時は検察が発行していた「通信監察書(通信内容の聴取許可書)」を入手した上で、電話会社の交換器棟に赴いて盗聴を行っていました。そして、このようにして入手した資料が興信所に流され、警察は報酬を得、興信所は資料を顧客に販売し暴利を得ていました。

 台湾高雄高等裁判所は2012年7月の判決の中で、▽警察が通信記録を入手した行為は「公務員洩漏国防以外秘密罪(公務員が国防以外の秘密を漏らした罪)」および「対非主管事務図利罪(非主務事務において利益を得る罪)」を構成し、▽興信所は「電脳処理個人資料保護法(現在の「個人資料保護法」)」違反を構成しているが、▽盗聴に関しては、警察は「通訊監察書」に従った「通信内容の聴取」を行っただけなので違法とはならない──と判断しました。

高裁判断を逆転

 最高裁判所は台湾高雄高等裁判所のこのような判断に賛同せず、以下のような判断を下しました:
1)興信所は通信記録を入手したことにより利益を得たが、被告(警察)はそれにより利益を得たのか?また興信所が利益を得ることを知っていたのか?原判決はこの点について何ら説明をしていない。つまり、被告(警察)の行為に「図利(自己また他者が利益を得る目的)」があったのかどうかの判断に疑問が残る。

2)被告(警察)は、違法薬物の調査の際に、興信所より委託を受けた調査対象の電話番号を、通信内容の聴取を行う電話番号の中に紛れ込ませ、事情を知らない検察官に通訊監察書を発行させた上で盗聴を行い、また盗聴の録音テープを興信所に渡した。これら一連の行為の中で、興信所の調査対象の電話番号の盗聴を行った部分は明らかに違法である。原判決は通訊監察書に基づいて行われた通信内容の聴取は全て合法だとしているが、その判断には誤りがある。

3)盗聴を行った警察は「公務員洩漏国防以外秘密罪」のほか、「無故取得他人電磁紀錄(他者の電磁気記録を理由なく取得した)」罪を構成している。原判決はこの点についての認定を行っておらず、誤りがある。

4)司法機関が電話会社より個人資料または通信記録を得るためには費用の支払いが必要となる。警察が違法に資料を入手したことで、司法機関に本来支払う必要はない費用を支払わせた一方で、興信所にそれを販売させたことで巨額の利益を得させた。この部分について「図利罪」が構成するが、原判決ではこの点について判決していないため判断に問題がある。

5)警察が違法に通信記録を入手、または盗聴を行う過程において、公務上取得した理由を捏造(ねつぞう)し、他者に誤信させたことについては、別途「行使公務員登載不実之文書(公務員に不事実な記載をした文書を行使した)」罪を構成しているが、原判決ではこの点について判決していないため不法である。

「重大な違法性」を明示

 この最高裁判決は、盗聴行為に関わる多くの法律についての判断を下しました。これらの行為には多くの違法プロセスが含まれていますが、全体としての行為は「人権侵害」の本質を構成し、かつ「重大な違法性」を明示しています。また、最高裁判所は過去の多くの判決の中で、「違法行為を行っている者は、当該行為が違法であることを認識した時点で、当該違法行為を停止する義務がある」「そのような状態において当該違法行為を停止しないことは、犯罪に対して故意がある」ことを認めています。

 残念なことに、今回の盗聴に関する議論の中で、このような論点から問題の本質を見いだし、大衆に正確な評価を提供している人はいないようです。最高裁判所は、この時期にこのような判決を出したことで、何らかの注意を促しているのでしょう。 

徐宏昇弁護士事務所

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