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第143回 倚天のインサイダー取引案判決確定


ニュース 法律 作成日:2013年9月25日_記事番号:T00046044

産業時事の法律講座

第143回 倚天のインサイダー取引案判決確定

 2008年、共に上場企業であった倚天資訊と宏碁(エイサー)が合併しました。当時、倚天の副董事長だった駱文仁氏は、合併案を知った後、それが公表される前に、中学時代の同級生、呉重銘氏の名義で倚天の株券750枚を購入、いわゆるインサイダー取引を行いました。台湾高等裁判所は駱氏に懲役3年10月、呉氏には懲役3年6月を言い渡しました。判決は最高裁判所の判断を経て、8月8日に確定し、刑が執行されることになりました。

 倚天は早期から「中国語システム」の開発を行っていた企業でしたが、07年末にエイサーとモバイル通信についての業務提携を行った後、合併の話が持ち上がり、08年1月には倚天株1.07株に対してエイサー株1株の交換率で合併条件がまとまりました。その後、双方は協議と現地調査(due diligence)を行った後、共に3月3日に臨時役員会議を開催、当日午後の記者会見で合併の事実を公表しました。

不正利益は620万元

 当時、倚天の副董事長だった駱氏は、倚天の株主としても第2位の株保有数でしたが、職務上得られた合併情報に基づいて、中学時代の同級生で緯創資通(ウィストロン)の法務部長だった呉氏との話し合いの後、呉氏の名義で08年2月25、26および27日に倚天の株75万株、計750枚を購入しました。購入価格は1株当たり38.55〜40.6台湾元で、合計金額は2,965万5,426元でした。

 前述の750枚の株は合併後、権利落ちを経て708枚のエイサー株に交換されました。2人は09年3月から5月までの間に592枚を48.4〜67.7元で売却。税金・手数料を差し引いた残高は3,507万8,890元でした。最終的に裁判所は2人の不正利益は620万208元であると認定しました。

 この案件では、前述の2人のほかにも、呉氏の父親、呉錫橈氏も被告人となっていました。検察の認定によると、呉錫橈氏は08年2月26日に倚天株120枚を購入したインサイダー取引の容疑があるとされていましたが、裁判所は判決の中で、呉錫橈氏の株購入が、駱氏の情報提供に基づいて行われたものと証明することはできないと判断し、呉錫橈氏を無罪としました。

 さて、駱氏と呉氏は共に、駱氏が呉氏に提供した資金は、駱氏が呉氏から不動産を購入するための「手付金」だったと主張し、その証拠として売買契約書も提出していました。

盗聴記録が決め手

 一方、検察は2人の「通訊監察錄音」すなわち盗聴記録を証拠として提出、裁判所は08年2月25~27日(株購入期間)、09年5月3~14日(株売却期間)および09年7月3日(調査局による家宅捜索当日)の録音ファイルを証拠として採択しました。2人の会話は例えば「67.7元で50枚売却」の場合、「6,770型を50台購入してくれ」というような暗号化がされていましたが、裁判所が全ての会話を解析した結果、当日の株購入・売却金額および数量が全て会話内容中の数字と一致したため、被告人としても言い逃れはできませんでした。

 また、2人は600万元「ぽっち」の利益で3年10月、3年6月の懲役刑は重過ぎるとも抗弁していましたが、2人の犯した犯罪の最低罰は3年のため、裁判所としてもそれ以上軽い判断をすることはできませんでした。

盗聴を行う基準は?

 台湾ではインサイダー取引をはよくあることです。しかし検察の捜査、起訴の後、犯罪として有罪が確定する案件はそれほど多くありません。本案については、前述の盗聴記録がキーポイントだったと言っていいでしよう。しかし、裁判所が罪の認定に使用した盗聴記録は、家宅捜索当日を含めて総録音期間が1年以上の長期にわたるものでした。いったい検察は「盗聴を行うかどうか」の判断をどのような基準で行っているのでしょうか?全ての上場企業の董事、監察人、経理などが盗聴の対象なのでしょうか?それとも重大な情報を発表する直前の企業のみが対象なのでしょうか?もし後者だとすると、どのようにその対象者が「重大な情報を知る直前である」ことを知り得たのでしょうか?もし調査機関がそれらの情報を知り得るならば、一般大衆でもそれを知り得たのではないでしょうか?

 この問題に対する答えは、呉氏が倚天の株を購入した08年2月25~27日の3日間、倚天株の取引高が上昇し続けていたのはなぜかを考えれば分かるのではないでしょうか。 

徐宏昇弁護士事務所

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