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第141回 「台湾高粱酒」の商標問題


ニュース 法律 作成日:2013年8月28日_記事番号:T00045566

産業時事の法律講座

第141回 「台湾高粱酒」の商標問題

  台湾にいらっしゃったことがある方であれば、「金門酒廠実業股份有限公司(KKL)」の生産している「金門高粱酒」を飲まれたことがあると思います。ウィキペディアによると、「金門酒廠」はもともと1950年に「金門高粱酒」の発明者である葉華成氏によって設立された「金城酒廠」という酒工場でしたが、53年に当時の金門防衛司令部に公文書1枚で国有工場として徴収され、現在の金門県政府所有の「金門酒廠」となりました。

 一方、「台湾高粱酒」という名称は「台湾煙酒公司(TTL)」旗下の「嘉義酒廠」が、50年に開発したものと言われています。「嘉義酒廠」は16年の設立後、第2次世界大戦終結後に中華民国に接収され、国有企業となり、「高粱酒」の名称で高粱酒を生産していましたが、前述の「金門高粱酒」が台湾島内で販売されるようになってから販売量が激減したため、現在では「玉山高粱酒」などの新ブランドを開発しています。

 以前、台湾では酒・タバコの販売は政府の専売でしたが、台湾の世界貿易機関(WTO)加入後、国際的な圧力の下、専売制は廃止され、多くの業者が各種高粱酒の製造販売に参入しました。

 09年、TTLは知的財産局に第1414953号登録商標「台湾高粱酒」を申請し、認可されました。しかし商標が公告されると、「台南県酒類商業同業公会」が異議を提起しました。知的財産局は異議に対する審査の後、「高粱酒」は酒類の名称で、「台湾」は地名である。また、両者を結合しただけの「台湾高粱酒」という用語は、単なる記述的な用語にすぎない。したがって、「台湾高粱酒」それだけでは商標とは成り得ないとの判断を下しました。

 この判断に対してTTLは行政訴訟を提起し、「台湾高粱酒」の名称はTTLが創設し、かつ長期間、大量に使用していた商標である。そのため、現在では既に「2次的意義(secondary meaning)」が備わっており、「台湾高粱酒」は単なる「記述的な用語」ではなく、TTLの生産する「高粱酒」を代表する商標であり、知的財産局はその商標登録を認めなければならないという主張を行いました。

「後天的識別性」の有無が争点に

 これに対する知的財産裁判所の判断は以下のようなものでした。

 原告は、本件商標は「2次的意義」を備えていると主張しているが、それはすなわち、本件商標そのものには識別性がないという事実を認めたことにほかならない。

 いわゆる「2次的意義」とは、本来識別性を備えていない商標が、申請者の長期にわたる使用の結果として申請者の商品、サービスの識別力を獲得し、本来の意義のほかに、商品やサービスと単一の出所を結び付け、区別することが可能になったものをいう。そしてこのような「後天的識別性」も法律の保護の下にある。

 商標が実際に使用されるに当たって、その大きさ、比率、字体などは商品の包裝に合わせて変更されるのが普通である。そのため、商標が「2次的意義」を備えているかどうかを判断するに当たっても、商標が実際に使用される際の状態を考慮し、主要部分観察の原則および全体観察の原則に基づき、通常の知識と経験を持つ消費者の立場に立って、商標図案中の「指示商品・サービスの出所」部分と「商品・サービスに関する説明」部分に分けて判断を行う必要がある。

 原告の提出した証拠によれば、原告が、その生産商品である「高粱酒」に使用している商標には、▽「高粱酒」の3文字▽「高粱酒」の3文字の上部に小文字で「台湾」▽「高粱酒」の3文字とその他の文字──などが存在する。

 以上のことから、「原告の生産する高梁酒の歴史は数十年に上るものであるが、そのブランド名は『台湾高粱酒』に限られていたわけではない。また、酒・タバコの専売制度が廃止されてから、係争商標が登録されるまでの9年の間、原告は『台湾高粱酒』商品を大量に販売していたわけでもない。したがって、通常の知識と経験を持つ消費者が、商品を購入する際に払う通常の注意では、商標『台湾高粱酒』が被告を出所とするものと認識することはできない」との判断が下されました。

 その後、TTLは最高行政裁判所に対して上告を行いましたが、今年7月、裁判所はそれを棄却したため、判決が確定しました。

認定には商標の忠実な使用が必須

 この案件から、知的財産裁判所は地理的表示を含む商標に対して、「先天的識別性」は無いと認定する傾向があることが分かります。またその上で、「後天的識別性」すなわち「2次的意義」が発生するかどうかについての判断は、申請者が自ら長期にわたり大量に使用したかどうかを根拠に判断しています。さらに、「使用」とは「忠実な使用」を指し、一貫して同じ商標を使用し続けることが求められています。たとえ長期間の使用がされていたとしても、もし、使用の過程でその形式が変化をしていれば「後天的識別性」すなわち「2次的意義」は発生しないことになってしまうため、注意が必要です。

徐宏昇弁護士事務所

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