ニュース 法律 作成日:2013年6月5日_記事番号:T00044034
産業時事の法律講座一般に智財局(知財局)と呼ばれる経済部智慧財産局(知的財産局)は、自らを「智慧局」、すなわち「英知局」と呼んでいるようですが、ここ最近、その「英知」を感じさせない出来事を連発しています。
実質的なアクセス制限
知財局は5月21日、台湾の文化産業を海外の権利侵害サイトによる侵害から守るため、「迅速処置」採択の検討を発表しました。
その内容は、知財局が▽インターネット上での権利侵害行為を行っている、または内容が重大かつ明確に著作権を侵害しており▽台湾の文化産業の発展に重大な影響を及ぼしている▽海外にサーバーを設置している──サイトを発見した場合、司法機関および権利者団体、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)、学者、専門家などを招聘(しょうへい)して当該サイトを審査し、当該サイトが「国外重大権利侵害サイト」と認定された場合、ISP業者に対して当該サイトのIPブロックを要求するというものです。この処置により、台湾のネット使用者は「国外重大権利侵害サイト」にアクセスできなくなります。
まるで司法権
この「迅速処置」が発表されると、大きな反発が起こりました。大方は「知的財産権の保護は必要だ。しかし政府には市民が何を見て、何を聞くべきか決定する権利はない」という意見です。中国が海外のサイトをブロックしている「グレート・ファイアウォール」の結果を見ても、このような処置が想定通りの効果を生むことは絶対にありません。
にもかかわらず、知財局は「多分みんながそう思っている」という乱暴な根拠で、自身に「準司法権」を付与し、台湾人の「インターネット上で権利侵害行為を行っている」、「明確に著作権を侵害している」サイトへのアクセスを制限しようとしています。これにより制裁を受けるのは、それらのサイトではなく、台湾人の「言論の自由」なのですが。
反発を受け、知財局は5月24日、「検討中の処置は、言論の自由とインターネットの中立性(インターネットというツールをどのように使うかは使用者の問題で、ツールそのものに違法性はない)に影響を及ぼすことはない」という声明を発表しました。声明の中で知財局は、検討中の処置は「少量、または部分的に著作権を侵害しているコンテンツを提供しているサイトをブロックすることはない」としていますが、それでは知財局はそのような侵害サイトの存在には反対しないということなのでしょうか?
前回の法改正を「撤回」
サイトブロック事件がまだ冷め止まぬ5月31日、立法院は台湾大学法学部院長である謝銘洋氏が立法委員を通じて提出した特許法改正案をわずか3日で成立させました。この改正法は、今年1月1日に施行された新特許法の以下の問題点を改正したものです。
1)12年に特許法が改正されるまで、裁判所は故意に権利侵害を行った側に対して、証明された損害額の3倍を限度とした「懲罰的損害賠償」の支払いを命じることができました。この規定は、損害賠償の認定が極度に厳しい知的財産裁判所において、特許権利者側の損害証明責任を軽くする効果があり重宝されていました。
しかし12年の法改正の際、知財局は何の根拠もない民法の理論を持ち出し、外界の反対を押し切って同規定を削除、立法院もそれを認めてしまいました。
この規定が実際に施行されれば、特許権利者はその勝訴率が12.5%しかない知的財産裁判所において窮地に立たされ、たとえ勝訴しても実際に損害賠償を勝ち取ることは難しい状況に追いやられるところでした。
今回の再改正は、元々あった条文を復活させただけです。つまり、前回の改正の過ちが認められたということです。
2)発明特許は一般に2~3年の審査期間を要するのと比べ、実用新案は実質審査を行わない、いわゆる形式審査を採用しているため、約4カ月で特許取得することができます。そのため、多くの発明者は実用新案と発明特許の双方を申請し、実用新案を先に取得することで発明特許を取得するまでの時間の穴を埋めようとします。
しかし1つの発明に対して2つの特許を付与することはできないので、このような場合、発明特許を取得する直前に、実用新案と発明特許の一方を選択しなければなりません。発明特許はその保護期間が実用新案より長いことから、通常の発明者は特許発明を選択し、実用新案を放棄することを選びます。
12年の法改正の際、知財局は何を思ったのか「もし申請者が特許発明を選択した場合、実用新案は発効時にさかのぼって消滅する」という改正案を提出、立法院もそれを認め、成立・施行されてしまいました。その結果、特許権者がすでに取得していた実用新案は過去にさかのぼって消滅してしまいました。
これは立法制度としては大きく間違っています。今回の再改正では、件の規定を「申請者が発明特許を選択した場合、実用新案は発明特許が公告された時点をもって無効とする」とし、特許の効力がより長くなる方向で改正が行われました。
知財局は信用回復を
改正法は総統による公布をもって施行されますが、注目すべきは、この改正には知財局の参与が一切なかったにも関わらず、知財局が12年に改正を行った時の数倍のスピードで改正が行われたことです。
最近の知財局は、その政策決定能力にしても、実質審査を行っているにもかかわらず知的財産裁判所による取り消し率が形式審査のみを行っている実用新案とほぼ変わらない発明特許審査にしても、全体的に各界の不信感を増大させてしまうことしかしていないようです。今こそ智財局の「英知」が試される時でしょう。
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