ニュース 法律 作成日:2013年5月22日_記事番号:T00043776
産業時事の法律講座力晶科技(パワーチップ・テクノロジー)の創設者である黄崇仁氏は、背任とインサイダー取引の罪で、台湾高等裁判所から懲役3年10月の有罪判決を受けました。その後、黄崇仁氏と検察側が共に上告したため、最高裁判所は4月25日、背任については上告を棄却して有罪を確定するとともに、インサイダー取引については高裁の判決を破棄、差し戻す判断を示しました。
まず、背任について、黄崇仁氏は「力仁電子公司(デュートロン・エレクトロニクス)」および「力世管理顧問公司(パワー・ワールド・キャピタルマネジメント)」の董事長在任中だった2003年に自宅の改装費用として512万5,000台湾元を両社の経費から支払った背任の容疑で起訴されました。
一審の新竹地方裁判所は背任の罪を認めて懲役1年の判決を下しましたが、黄崇仁氏は減刑条例の適用を受け、懲役6月に減刑され、その後の二審も地裁の判決を支持しました。
ちなみに、この罪状の刑罰については、懲役日数1日当たり900元を納めれば収監されません。
次にインサイダー取引について、検察官は、「黄崇仁被告がパワーチップの董事長在任中であった05年11月末、パワーチップが旺宏電子(マクロニクス・インターナショナル)の第3工場(晶圓三廠)を買収すること(以下「売却案」)に大筋の見通しが立ったことを知り、実現すればマクロニクスは資金を得るばかりでなく、減価償却費用の負担もなくなるため同社の株価が上昇すると考え、マクロニクスが売却案を公開する前に、投資担当職員の黄俊欽氏に、パワーチップおよびパワーチップ子会社の名義でマクロニクスの株式、約7,000万株を購入するよう命じた」と判断し、黄崇仁氏をインサイダー取引の罪で起訴しました。
しかし、一審の新竹地裁は無罪判決を下したため、検察が控訴、二審の台湾高裁は3年6月の逆転有罪判決を下しました。
売却成立を知ったのはいつか
最高裁が二審判決を破棄した理由は以下のとおりです。
(1)検察は、05年11月28日を工場売却案による「株価に重大な影響を与える情報の最も早い成立時(以下「重大な情報成立時」)」であると主張しましたが、台湾高裁は、両社が同年7月初旬より工場売却に関する交渉を続けた結果、12月22日の会議で「53億元で売却交渉が成立」と決定したため、12月22日が「重大な情報成立時」であると判断しました。
ところが、本売却案は11月末以前に売却金額以外の条件については全て合意に至っており、またマクロニクスが11月28日から工場の機材搬出を始めていたことからも、台湾高裁の認定した「重大な情報成立時」とは大きくかけ離れていました。
そのため最高裁は「重大な情報成立時」の判断は「被告の犯罪期間とそれによる所得の計算」に不可欠な要素だとして、判決を破棄、「重大な情報成立時」の再認定を行うよう求めました。
(2)黄俊欽氏は一審においてマクロニクスの株式購入を決めた理由として、▽マクロニクスの大手取引先である日本のメガチップスが同社株式を1億2,000万株購入した▽任天堂が大量のマスクROMを購入する可能性がある──など5点を挙げていましたが、台湾高裁は、投資担当の黄俊欽氏は「投資的判断」に基づいて株を購入したのではなく、黄崇仁氏の指示に従い株を購入しただけだと判断しました。
最高裁は二審のこの判断は説得力を欠いているとして、さらに詳細な調査を求めました。
投資判断に黄崇仁氏は関与したのか
最高裁のこのような判断は、一見、黄崇仁氏にとって有利にも不利にも見えますが、二審判決を見るに、それほど有利なものではないようです。
その理由は、
(1)二審判決には、黄崇仁氏が売却案の進展を完全に掌握していたことを証明する証拠として、12月22日前後に黄崇仁氏とその配偶者とある職員の間で交わした通話の盗聴内容が使われました。
その内容は、黄崇仁氏が配偶者とある職員に対してマクロニクスの株を購入するよう勧めているといったもので、検察側はそれ以外に黄崇仁氏が黄俊欽氏にマクロニクスの株を大量購入するよう命じた直接的な証拠を提示できませんでした。
この点について台湾高裁は、「黄俊欽氏が自らの意思によって、長期にわたって株価が下落していたマクロニクスの株式を3億元分も購入することを決めた」のには無理があると別の観点から認定しました。
(2)また、二審判決では、黄俊欽氏は売却案が大筋合意に至った事実を知らず、黄崇仁氏の指示に従って株を購入しただけであるとして無罪判決を下していましたが、今回、黄崇仁氏の判決が破棄、差し戻されたため、今後の判決で黄崇仁氏が有罪と判断された場合、黄俊欽氏の無罪判決についても調べる必要が出てきています。
インサイダー事件の参考に
そしてこの懸念が案件の展開にどのような影響を及ぼすかについては、今後も引き続き観察が必要です。
インサイダー取引は台湾ではよく起きる事件の一つで、多くの訴訟が起こされていますが、有罪判決が確定することはほとんどありません。
そのため本案件における調査結果と、今後出される判決は、業界にとって大きな価値があるものとなるでしょう。
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