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第133回  法律の新領域「拡張現実」


ニュース 法律 作成日:2013年4月24日_記事番号:T00043260

産業時事の法律講座

第133回  法律の新領域「拡張現実」

 報道によると、東京地方裁判所は4月15日、米グーグルに対して、グーグルが提供している(関連する単語を予測して自動表示する)サジェスト機能から、ある特定の男性の姓名と、その入力で表示される、ある犯罪行為の罪名のつながりを削除すること(差し止め)を命じる判決を出しました。これにより、グーグルのユーザーが男性の姓名を入力しても、犯罪行為の罪名が自動的に表示されることがなくなるため、ユーザーがそれらを同時に検索することは少なくなりました。

ネット検索の危険責任

 この判決はいろいろな問題を提起していますが、中でも注目に値するのは、新しい法律の概念、インターネット検索サービス提供者の「一般危険責任」でしょう。「一般危険責任」とは、特定の業種の経営者が、当該業種の活動、または当該業種の利用する工具が他者に対して危険をもたらしている際に、それを防止する義務のことです。

ARゲームも同様の問題

 なお、グーグルのサジェスト機能は、ユーザーが検索ワードを入力すると、次に入力されるであろうワードを自動的に予測するというものです。予測される文字は、他のユーザーが過去に使用した検索ワードや、インターネット上の文章などを基に、グーグル内部で構成されたデータベースに基づいて選出されます。

 このような技術は、最近話題の「拡張現実」と似ています。拡張現実(AR)とは、現存する映像・画像を分析し、特定のパラメーターを得た後に、それらのパラメーターを操作し、または同類・異類のパラメーターと結合させることで、新しい映像・画像を得るという技術です。

 このような技術を基に作成された映像・画像は、分析・判断・予測など、幅広い用途に利用されているほか、娯楽などの用途にも多々利用されています。例えば、映像、インタラクティブ(対話型・双方向)ゲームなどや、単純な娯楽効果のある写真を制作する簡単なアプリなどもこの技術の応用です。

 拡張現実やその類似技術の最も重要な特性は、元の資料内容に変更を加える点にあります。例えば前述のサジェスト機能を例に取ると、ユーザーが入力した検索ワードは、サジェスト機能により詳細な検索ワードが付け加えられることで、元の検索ワードが変更されてしまいます。拡張現実の場合、ユーザーが撮影した写真および写真の中の要素(顔、会社の名称、商標、画像など)が変形されることになり、また音楽の場合は、楽器の組み合わせや、声などが変更されることになります。このような技術は現在、法曹界で討論を引き起こしています。

変更後の著作権は?

 拡張現実やその類似技術により引き起こされる法律問題として、まず著作権の帰属の問題があります。ユーザーが拡張現実を利用して得た写真や画面の著作権は、ユーザー、それとも拡張現実製品の提供者のどちらにあるのでしょうか?

 似たような法律問題として「ゲームのユーザーがゲームの過程を録画したものの著作権は誰のものか?」という問題が現存します。ゲームのユーザーは、ゲームの操作には多くの熟練された技術が必要であると主張していますが、ゲームメーカー側は、それらの画面はすべてプログラムに設定されているものであり、ユーザーはそれらの画面を「再現」しているだけだと主張しています。

 拡張現実とインタラクティブゲーム画面の録画との違いは、前者の映像はユーザーにより撮影されたものであることです。つまり見方を変えれば、ゲーム画面の録画は、撮影者がその結果を予知した上で自ら行った撮影または録画と考えることができ、陶芸家が陶器を焼く際に出来上がりの形をある程度予想した上でそれを焼くように、自らの意志でその画面を映し出しているとも解釈できるのです。すなわち、拡張現実の撮影者は、もしこのような説が通じるのであれば、ゲームの過程を録画したものの著作権はユーザーに属することになるでしょう。

 拡張現実のもう一つの問題は肖像、商標、名称を変更するという点です。他者の肖像の変更は人格権の侵害になる可能性があるため、公人である場合を除き、本人の同意を得る必要があります。他者の商標の変更については、商標の模造、同業者による不正競争に相当する場合のほかは、科学技術の進歩に伴う許容範囲であると考えられます。建築物の形状の変更は、建築士の持つ著作権の侵害となる可能性があります。しかし実際には、ユーザーの用途により、違法性を判断することになるでしょう。

予防策ができるまで

 サジェスト機能と同様、拡張現実を提供するメーカーは、他者の権利を侵害することに対して予防策を講じなければなりません。しかしどのような結果を防止すべきなのか?制限・警告などどのような方法で?どの程度まで?
こうした具体的な内容については、これら新しい技術が熟成した時に初めて法的規範が設けられるでしょう。その時までは、私たち弁護士と裁判所が創意を発揮しなければなりません。 

徐宏昇弁護士事務所

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