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第128回 空手形


ニュース 法律 作成日:2013年1月23日_記事番号:T00041752

産業時事の法律講座

第128回 空手形

 台湾では、通常では引き受けられない、いわゆる「空手形」のことを「空頭支票」といいます。空頭支票には、ちゃんとした経済上の価値と目的があるため、「芭楽(グアバ)票」でない限り、流通・受け取りがされる場合がほとんどです。「芭楽票」とは、財力のない第三者の振り出した手形のことで、通常は振出人が行方不明者、指名手配犯、服役中、すでに存在しない法人などです。

 手形は金銭に代わるものとして法律に記載されていますが、台湾では、振出日を未来に設定(遠期支票)することで、手形を将来の支払いの「担保」として扱う行為がよく行われています。また商業上、実際には双方の間に何の取引もないのに、「振出日に借金を返還すること」だけのために遠期支票を振り出す場合がよくあります。

 「遠期支票」は「未来のある特定日」に支払いが行われるまでの間、その所有者がリスクを負うことになるため、この「リスク期間」を利用し、多くの詐欺行為が行われています。例えば、台湾では手形に振出人の印章がなければ銀行で支払いを受けることはできませんが、手形の所有者が手形上の「振出日」に、「小切手に押されている印章と、銀行に登録されている『印鑑』が一致していない」と銀行から初めて知らされます。この場合、債務者である振出人は「小姐(事務処理上)のミス」を理由に、「手形の差し替え」を行い、支払期限を引き伸ばすことができるのです。

手形名義を悪用したトリック

 2007年、日本のゴルフ倶楽部(A社)は、台湾の旅行社に対し、借金3,500万円を取り立てるため、支配人B氏を台湾に派遣しました。旅行社側の責任者は、旅行社の「監察人」の名義で、額面600万元で2枚の遠期支票を振り出し、支払いの担保としてB氏に手渡しました。そのうちの1枚の手形の「受款人(受取人)」は「A会社B先生」となっていました。

 A社は手形に「A会社B先生」と裏書きした後、A社の台湾の銀行口座に「存入(支払い銀行に対して支払いを求める行為)」を行いました。しかし、「手形の振出日」に旅行社の監察人の口座残高が不足していたため、銀行は支払いを拒否。A社は台北地方裁判所に訴えを起こし、旅行社の監察人に支払いを求めました。

 台北地裁は手形の受取人はA社であると認定、監察人に対し全額の支払いを命じました。しかし、監察人の弁護士が控訴審で、「受取人はA社とB氏であるため、A社とB氏は共同提訴しなければならない」と主張し、台湾高等裁判所は手形の受取人をB氏であると認定しました。なぜならば、その手形は「禁止背書転譲(裏書譲渡禁止)」であるため、A社は裏書きによって手形を譲渡することはできないからです。従って、A社は単独では原告になれないため、監察人に対して手形の支払いを求める権利はないと判断され、訴えは却下されました。12年11月15日、最高裁判所もこの判断を支持し、訴訟が終了しました。

 A社は、前記の「手形」の裁判において、問題の旅行社に対し3,500万円の借金の支払いを求め、第一審、第二審とも勝訴していました。A社は第一審の判決を得た後、裁判所に対して「仮執行」を申請しましたが、旅行社には差し押さえ対象となるような財産がなく、実質上、A社は3,500万円の借金の支払いを求めることができなくなったのです。

「法律リスク」に注意を

 借金問題とは別に、台湾の法律では例えば旅行社と消費者との間でトラブルが発生した際に、消費者がきちんと賠償を受けられるよう、旅行社は交通部観光局に対して150万元の保証金を納めることが義務付けられています。しかし、観光局はこの規定を実行しておらず、実際に旅行社が納めている保証金はわずか15万元でした。

 結果、A社は裁判で勝訴し、規定上では1,000万元以上の賠償金を受ける権利を得ていたにもかかわらず、実際には観光局から15万元を受け取っただけでした。一方、問題の旅行社は営業を一時的に停止した後、同じ経営者が異なる会社名義を使用し、引き続き営業を続けています。

 このことからも分かるように、台湾の法規定そのものは先進国家のそれと近いものがありますが、法の執行に関して政府がきちんと監督してしないだけでなく、民間でも各種の変わった「作法」が存在するため、外国人が台湾で商取引を行う際には、これらの「法律リスク」に対して注意が必要です。

徐宏昇弁護士事務所

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