ニュース 法律 作成日:2012年11月28日_記事番号:T00040700
産業時事の法律講座2002年2月、台新銀行は94億7,500万台湾元で大安銀行を買収し、その資産内訳を「淨資産公平価値(純資産の公正価値:日本の会計用語は「時価評価純資産」)」が約56億8,200万元、「商誉(のれん)」約37億9,300万元と計算しました。台新銀行の親会社である台新金融控股は、当年の所得税を申告する際に、前述ののれんの価値を5年で減価償却が完了する計算で、当年度分の7億5,900万元を償却分として台北市国税局に申告しました。しかし、この申告内容が受け入れられなかったため、行政訴訟を起こしました。
12年3月8日、台北高等行政裁判所は、「のれんの価値の認定が事実と異なる」との判断の下、台新金控の訴えを退けました。同年11月8日、最高行政裁判所は台新金控の上告に対し、高等行政裁の判断を支持し、原告の訴えを退ける判断を下しました。メディアによると、銀行業界はこの判決に対して「公理はどこに?」という評価を下しているそうです。
台湾での「のれん」の意味
「商誉」とは読んで字のごとく、企業の商業上の名声を指すものなのかもしれませんが、台湾の税務法令上の「のれん」は、必ずしもそれを指しているのではありません。企業のM&A(買収・合併)時において、「買収価額」から、「買収された企業の認識可能資産(可辨認資産)」を控除したもののことを指します。文字上の意味をとって言えば、「のれん」とは、「認識不可能な資産」のことを指していることになります。つまり、何を買ったか分からないものをとりあえず「のれん」と呼んでいるわけです。この点について、最高行政裁は、前述の判決の中で「企業のM&A時において、M&Aを実行した企業が、当然のこととして『のれん』を資産として得るとは限らない」と述べ、「のれん」に対する注釈をつけています。
この定義から分かることは、企業がM&Aを行う場合、買収される企業の「買収価格」を「純資産の公正価値」だけではなく、経営規模、販売ルート、市場占拠率などの要素も考慮して決めなければならないということです。M&Aを行う企業が「純資産の公正価値」を超えた金額で実行するのには、それなりの評価と考えがあってのことです。「のれん」とは、それらの部分の総称した単語なのです。
買収価格に懐疑的判決
企業がM&Aを行う際の買収価格は、株主に対して影響を与えるだけでなく、税務処理とも多くの関係があります。例えば、買収価格が「純資産の公正価値」を大きく超えている場合、自らの株主の権益を買収される企業の株主に分け与えることになる一方、「のれん」の金額が高過ぎることは、形を変えた脱税にほかなりません。そこで、多くの法令では、「買収価格」イコール「純資産の公正価値」としています。前述の案件において、台新銀行が大安銀行を買収した価格について、判決は以下のような懐疑的な解釈をしました。
1)原告が主張する評価の根拠は、01年6月30日の時点での大安銀行の資産負債表中の同行の1株当たり純資産は7.46元であったが、同年末および合併基準日の1日前にはそれぞれ3.97元、3.61元まで暴落している。原告はこの株価暴落が不良債権の処理によって起こったものであることを証明できない以上、前述の買収評価に関する根拠は非合理的であると言わざるをえない。
2)買収価格における「のれん」の価値は約40%を占めている。しかし、買収以前の大安銀行は例年赤字経営で、原告は大安銀行にどのような「経営的特質」があり、それが38億元に値するのかについて具体的な説明を行っていない。ただ「資産の品質、総合経営実績、および未来の利益確保に関する展望などを考慮した結果」という主張のみでは、このような巨額の「のれん」の価値を証明できていない。
3)一方で、認識可能な資産(負債を含む)について原告が認定した金額は、大安銀行の帳簿上の金額そのままであり、関連資産、負債の「公正価値」については何らの評価もしていない。このため、その認定価値は「公正価値」であるとは認識しがたい上、「のれん」を計算する上での根拠になるとは判断できない。
また、最高行政裁判所は、本件の銀行合併案は、財政部の許可を受けてはいるものの、財政部の許可の存在は買収価格の合理性を証明するものではないとしています。
本案は銀行間での100億元近い取引に関するもので、国税局が勝訴した今、国としてはそれ相当の税収につながったわけです。しかし残念なことに、台湾のメディアは見た目上の、通りいっぺんの報道しかしないため、銀行の「小株主」の権益などについては、ゴシップの下に埋もれてしまっています。
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