ニュース 法律 作成日:2012年9月26日_記事番号:T00039571
産業時事の法律講座「国際管轄権」とは、例えば日本企業と台湾企業との間の契約文書の「双方に争いがある場合は東京地方裁判所を管轄裁判所とする」というような条項を指します。さて、台湾の裁判所はこのような条項の効力を認めるのでしょうか?
以下の案件から見る限り、台湾の裁判所は上記の「東京地方裁判所を…」といったような条項を無効とする可能性が大です。
オランダのフィリップスと台湾の巨擘科技(プリンコ)は1997年に特許のライセンス契約を締結し、契約書に「本契約に関する解釈または履行に関して起きたすべての争いは、オランダのデン・ハーグの裁判所で最終的に解決されるものとする」という条項を盛り込みました。その後フィリップスは99年2月、プリンコが契約を履行しなかったとして、デン・ハーグ地裁に契約履行を求めて提訴しました。翌3月には台湾の新竹地方裁判所にも当該契約の履行を求めて提訴しました。
被告プリンコは当該案件は台湾に管轄権がないため、新竹地裁で審理はできないとの抗弁を行いました。しかし新竹地裁は08年8月、当該ライセンス契約にのっとり、被告に対し日本円で23億5,000万円のライセンス費用の支払いを命じる旨の判決を下しました。その後、被告はこれを不服とし、知的財産裁判所に控訴を行いましたが棄却されました。しかし最高裁判所はその後二度にわたり知財裁の二審判決を破棄しました。
台湾に管轄権あると判断
知財裁は2回目の二審判決の中で、なぜ台湾の裁判所に本案の管轄権があるのかについて、かなりのスペースを割いて説明を行いました。その理由は以下のとおりです。
1)多数の台湾の裁判所の見解によると、国際商務契約において他国の裁判所が管轄裁判所とされた場合でも、台湾の裁判所が審理を行えないというわけではない。
2)契約内に「台湾の裁判所の管轄権を排除する」との明文規定があるわけではない。
3)本契約はいわゆる「雛形(定型)契約」であり、かつ原告が一方的にその内容を制定したものである。そのため、台湾の新竹にいる被告が、契約時にデン・ハーグの裁判所が「排他的」に審理を行うことを意図していたと認定するには無理がある。
4)原告はデン・ハーグ地裁に提訴したにもかかわらず、台湾の新竹地裁でも提訴した。このことからも契約締結時に原告が「デン・ハーグの裁判所にすべての争いについての管轄がある」とは認識していなかったことがうかがえる。
読者の方々も知的財産裁判所のこのような判断には驚いたかもしれません。その理由は以下のようなものでしょう。
1)契約に「すべての争いは、オランダのデン・ハーグの裁判所で最終的に解決されるものとする」との記載があるにもかかわらず、知財裁は「デン・ハーグの裁判所だけで解決しなければならないとはしていない」と判断した。
2)一方的に「雛形(定型)契約」を制定したのは原告であるため、原告は当然契約内容に拘束される。つまり本件の場合、契約の拘束を受けないことを主張できるのは被告であり、原告ではない。
3)原告はデン・ハーグ地裁に対して先に提訴しており、新竹地裁はその後だった。しかし知財裁はこの事実から「契約締結時に原告がデン・ハーグの裁判所に排他的な管轄があるとは認識していなかった」という結論を導き出した。
最高裁は二度目の破棄判決の中で、知財裁のこうした認定に対して何らの批評を加えていません。これが最高裁も同様の認識を持っていることの現れなのかどうかについては、知財裁が三度目の判決を出した後、最高裁に上告が行われてみなければ分かりません。
今回の案件からは以下のことが分かります。
国際管轄条項に無効判断の傾向
1)台湾の裁判所はいわゆる国際管轄に関する条項を無効と判断する傾向にある。特に被告が台湾企業である場合にその傾向が強いが、この点については他国の裁判所と何ら変わるところはない。また、例え前述の契約に「デン・ハーグの裁判所に排他的な管轄権がある」と明記がされていたとしても、異なる結論に達するというわけではない。
2)国際商務契約において、契約上の争いがある場合、自らの所在地の裁判所で審理を行うことは、必ずしも有利となるとは限らない。訴訟実務上は、被告の所在地にある裁判所を管轄とした方が比較的現実的である。
3)国際管轄権を定める際には、まsずお互いの国の間で相手国の裁判所の判決を承認するかどうかを確認した上で、さらに国内法における「専属管轄」の規定に違反していないかどうかを確認する必要がある。この二つの条件を満たしていなければ、自らの国の裁判所で勝ち得た判決を相手方の国で執行することはできない。
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