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第125回 新聞報道での写真使用の合理性


ニュース 法律 作成日:2012年12月12日_記事番号:T00040960

産業時事の法律講座

第125回 新聞報道での写真使用の合理性

  台湾の大手紙、蘋果日報(アップル・デイリー)が2009年11月13日、「呉育昇立法委員(国会議員)がシャネルを着た女性を高級モーテル、薇閣精品旅館(We Go)に連れ込んだ!」と写真2枚付きで報道しました。夕刊紙、聯合晚報も同日の夕刊で同様の内容を報道し、蘋果日報の紙面上の写真を撮影したものを掲載しました。蘋果日報は、聯合晚報に著作権を侵害されたとして、聯合晚報および当時の副編集長、写真を撮影した「記者」を告訴し、検察官が起訴しました。しかし、一審の台北地方裁判所、二審の知的財産裁判所ともに無罪、最高裁判所は今年10月12日に上告を棄却し、無罪が確定しました。

 最高裁判所の判決理由は、「聯合晚報による蘋果日報掲載写真の撮影は一種の『合理使用』で、刑事責任を負わない」というものでした。

 「合理使用」とは、著作権法上の重要な理論で、著作権者の権利と公衆の利益との調和を図るためのものです。一般的に、他者の著作を利用する際、それが▽技術的に必要な方法▽非営利目的または教育目的▽与えられた損害が公益と比較して微量──の場合は、合理使用を構成すると判断される可能性があり、著作権者の同意を得ずに当該著作を使用することができます。新聞報道の場合、他者の著作を適度に引用する場合は、法律の認めるところとなるわけです。ただし、引用の際は、必ずその出所を明らかにし、著作権者に対する尊重の意を表す必要があります。

引用でなく「撮影」

 この事件において、比較的問題となる点は、聯合晚報は蘋果日報の写真を「引用」したのではなく、「撮影」したことにあります。「国内の他の新聞社はどのような報道をしているのか」という「報道」は、誰の目から見ても新聞報道のあるべき姿ではないでしょう。もしこの論調がまかり通るのであれば、皆が蘋果日報だけを買えば済むのです。しかし、今回、最高裁判所は憲法まで持ち出して聯合晚報の行為に合理的な理由を与えてしまいました。

1)憲法第十一条の規定によると、人民には言論、講学、著作および出版の自由がある。もし著作権の保護が過ぎれば、人民が撮影、録画、新聞、インターネットまたはその他の方法により時事報道活動を行う際の制限となり、結果として人民の情報取得の利便性を妨げることとなるため、著作権者の創作した作品に対する保護は、必要ながらも一定の制限が必要である。

2)係争写真は証人、すなわち撮影者の夜間遠距離撮影によるもので、高い技術の写真のため、創作性があり、いわゆる「撮影著作」に属するものである。

3)係争写真の目的は、公衆の当該報道に対する理解を深めるための補助的なもので、新聞報道事件との高い関連性を持ち、当該新聞報道と切り離して単独での価値は低い。蘋果日報が当該新聞報道を行った後、各電子メディアはこぞって蘋果日報の紙面を報道したが、聯合晚報は大部分の電子メディアよりも報道が遅かったため、係争写真の潜在的市場と現在の価値に与えた影響はほとんど無かった。

4)呉育昇氏は国会議員のため「公人」でもある。そのため、それが公共のテーマか、ゴシップかを問わず、時事報道の価値と必要性がある。聯合晚報は話題の女性の写真を探したが見つけられなかったため、仕方なく係争写真を撮影し、その出所を明らかにして使用した。これは著作権法第四十九条に規定されている「合理使用」の条件に沿ったものである。

特ダネの価値

 この最高裁判所の見解中、「新聞社は国会議員のゴシップを報道する必要があり、もし当事者の写真が見つからない場合は、他社の写真を撮影して使用することができる」としている点については、根拠があるのかもしれませんが、「電子メディアが蘋果日報の写真を競うように報道したから、夕刊紙もそれを撮影して使用してよい」としている部分には熟考の余地があるでしょう。なぜならば、その2枚の写真の価値は、「他の新聞社にはない特ダネ!」という点なのですから。

 また、最高裁判所は一方で2枚の写真の著作権を認めておきながら、一方で他社がそれを自由に撮影して使用できるとしました。では、著作権法はいったい何を守ることができるのでしょう?この判決を下した裁判官はこの問題に答えることが果たしてできるのでしょうか?

徐宏昇弁護士事務所

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