ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第120回 文化産業発展法


ニュース 法律 作成日:2012年9月12日_記事番号:T00039315

産業時事の法律講座

第120回 文化産業発展法

 台湾の電子産業が没落の兆しを見せ、世間はやっと従来型産業のほか、文化創意産業にも注目し始めました。これに先駆け、台湾政府は2010年の時点で「文化創意産業発展法」を公布し、同年8月30日より施行しています。

ハイテクと結合

 この文化創意産業発展法は台湾における文化創意産業の促進と確立を立法目的としています。つまり文化創意のすそ野開拓や、創作、展示などとは無関係です。このことからも「電子産業のようなグローバル市場を相手に文化創意商品(サービス)の工場を作りたい」という立法者の意図が見え見えで、大方の見方は「うまくいったとしても、グローバルな市場を相手にした文化創意商品(サービス)の請負加工工場が関の山」といったものです。

 この法律が目指すのは「芸術の創作、および文化保存、文化とテクノロジーの結合」に関連した産業の発展です。台湾発祥の、または台湾で設計された芸術、設計関係産業に重点を置いています。

 しかし文化創意産業は主に「創作」や「設計」で、物の「製造」ではありません。また使われる「原料」も作られた「製品」もすべて「無形」の「文化創意資産」です。これら「無形」の「文化創意資産」は知的財産権の法体制がなければ、保護も運用もできないはずです。しかし残念なことに、この法律は知的財産権法に関する人材の育成、トレーニング、法・政策改正などの関連事項に全く触れていません。

 また、文化創意製品の完成には多くのメディアと多くの創作人材の存在が不可欠です。複雑な権利関係の下に創作された知的財産権を、現在の知的財産権関連法だけで「保護」すること、特に「利用」することは非常に困難です。ただやみくもに文化創意産業を発展させようという立法では、長期的視野があるとはとても言えません。

新しい試みに課題

この法は新しい試みがなされていますが、注意すべき点もあります。

・台湾政府はこれまで少額ながらも多くの文化創意活動に出資し、多くの文化創意資産を生み出してきました。政府所有の「公有文化創意資産」の多くは、中国の古代文化財を基に作られたデジタルメデイアや、台湾の若い芸術家たちが創作した前衛的な作品です。法では、これら公有資産を一般向けにレンタルやライセンスするため、リスト化し公開することを規定しています。しかし、現在施行されている知的財産権法の関連規定で、これら公有の知的財産権を扱うことは非常に大きな困難を伴うため、政府が実際にこのような業務を行う際には多くの問題が発生するでしょう。

・法では、文化創意産業によって生み出された著作権には「質権」の設定、登記ができるとされています。このような規定はこれまで「売買」と「ライセンス」に頼っていた知的財産権で融資を受けやすくなる新しい試みですが、実際の運用には検討が必要です。

・いわゆる「孤児著作物(Orphan Works、権利の所在が不明な著作物)」について、法では「一切の努力をしても連絡が取れない場合は、知的財産局に対して『ライセンス許可』を申請することができる」とし、知的財産局はこの申請に際して「再調査」「ライセンス費を決定」することを規定しています。知的財産局が再調査やライセンス費の決定に必要な力を備えるのにどれほど時間が必要かが、制度の成功の鍵を握っています。

・また法には、同産業に対する投資や活動を促進するため、企業が文化創意の研究や発展、人才の育成に対して支出した場合、減税の対象となると明記されています。しかし、税務機関と行政裁判所の保守的な態度を見る限り、短期内には争議しか起きないでしょう。

 以上のように、文化創意産業発展法の新しい試みはすべて、政府官僚が今までの価値観を捨て去り、文化創意の本質を理解しなければ難しいものばかりです。科学技術の専門家と平凡な文化人の集まりでしかない今の政府では、この法律を有効に執行することはとても難しいでしょう。

徐宏昇弁護士事務所

TEL:02-2393-5620 
FAX:02-2321-3280
MAIL:hubert@hiteklaw.tw 

産業時事の法律講座