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第117回 罰金 ─ 知的財産法制度の新しい流れ


ニュース 法律 作成日:2012年7月25日_記事番号:T00038439

産業時事の法律講座

第117回 罰金 ─ 知的財産法制度の新しい流れ

 皆さんもご存じのように、台湾では著作権、商標権の侵害には刑事責任が課せられます。刑事責任というと、懲役刑を連想しますが、台湾における著作権の侵害は3年以下の禁固となっています。中でもCDの著作権侵害の場合は禁固6月以上の刑が科せられます。また、商標権の侵害については5年以下の禁固刑となっています。

 しかし、本コラム第110回「営業秘密の侵害、刑事罰導入かhttp://www.ys-consulting.com.tw/news/36459.html」で紹介したとおり、裁判官の多くは、著作権(著作財産権)や商標権の侵害は、あくまでも財産権侵害でしかないため、被告に禁固刑を言い渡す必要はないと考えています。

禁固刑を罰金で代替

 台湾の法規制によれば、6月以下の禁固刑の場合、検察官は禁固刑の期間を罰金に換算し、罰金を納めさせることで禁固の代わりとすることができます。一般的に、罰金の換算金額は1日当たり1,000台湾元です。

 特に被告が初犯の場合、裁判官は禁固以上の実刑判決を避けるために、被告に被害者との和解を勧め、執行猶予付きの判決を言い渡します。被害状況が深刻ではない場合、6月以下の実刑を言い渡した後に、前述の方法で罰金刑に換算してしまいます。

禁固刑か?罰金刑か?難しい選択

 しかし、一定以上の被害があるにもかかわらず、和解が成立していないような場合、裁判官は、実刑判決を言い渡して被告を禁固刑に処すべきなのか?それとも6月以下の判決を下して実質18万元ほどの罰金刑で処理してしまうべきなのか?という難しい選択を迫られます。前者では刑が重く、後者では社会の期待に背くことになるのは明らかです。

 著作権、商標権の侵害に関するすべての刑事裁判第二審の管轄が知的財産裁判所となったことで、前述のような「侵害状況が深刻であるにもかかわらず、和解が行われていないが、実刑判決を出すには及ばない」と判断される案件は、知的財産裁判所で集中して審理されるようになりました。その結果、現在では前述のような案件に対して、多くの場合、以下の2種類の対処方法が採用されています。

一.実刑の罰金換算金額の引き上げ:罰金への換算金額を1日当たり2,000元へ引き上げる。

二.罰金併合または賠償金の支払い命令:被告の経済状況を相当期間困難にすることによって、懲罰の代わりとする。


この原則を基に、最近の案件では以下のような判断が下されています。

1.2008年、刑事警察局は台湾最大の海賊版CD販売サイトを摘発、主犯格の男は中国へ逃亡した。台北地方裁判所は被告である会計士などに対して禁固22月の実刑判決を下したが、被告は控訴。12年4月、知的財産裁判所は約100万元の賠償金の支払いと執行猶予を言い渡した。

2.10年1月、新竹で大量の海賊版ゲームソフトが摘発された。一審の新竹地方裁判所は6月の実刑判決を言い渡し、罰金への換算を認めた。被害者の控訴を受け、知的財産裁判所は12年6月、被告に対して別途50万元の罰金の併合を言い渡した。

3.10年、台中でCDの違法コピーを摘発された被告は、台中地方裁判所より禁固10月の判決を受けるが執行猶予を求め控訴、知的財産裁判所は60万元の賠償金の支払いと執行猶予を言い渡した。

4.10年1月、台中の著名なWii改造店の店主が摘発された。一審の台中地方裁判所は1年の禁固判決。控訴後、知的財産裁判所は、12年7月、150万元の賠償金の支払いと執行猶予5年を言い渡した。

5.10年7月、新竹では最大のWiiの改造工場が摘発された。知的財産裁判所は12年1月、被告に対して禁固6月の有罪判決と罰金50万元を言い渡すとともに、禁固刑1日当たり2,000元で罰金への換算を認めた。

6.10年4月、台北で海賊版ゲームとWii改造に関する案件が摘発された。知的財産裁判所は、一審である台北地方裁判所の判決を軽すぎると判断、店主に6月の実刑判決を下したほか、会社として罰金50万元を言い渡した。

 これらの案件はほとんどが最近のものですから、このような処理方法は、知的財産案件の新しい流れといってもいいでしょう。経済犯罪を経済的に処理するというのは、とても合理的な方法です。しかし、知的財産裁判所のこのような判断を、最高裁判所が支持するかどうか、また、検察官による執行の際に何か問題は起こらないのかなどの点について、長期間の観察が必要なことは間違いありません。 

徐宏昇弁護士事務所

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