ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第123回 AUOの技術流出事件から


ニュース 法律 作成日:2012年11月14日_記事番号:T00040447

産業時事の法律講座

第123回 AUOの技術流出事件から

 先月、液晶パネル大手の友達光電(AUO)で技術流出事件が明るみになり話題となりました。AUOは中国の同業企業が昨年9月にAUOのモニター研究開発最高責任者と、有機EL(OLED)技術主任を高給で引き抜き、AUOのアクティブマトリックス型有機EL(AMOLED)技術を盗んだとして、今年9月に新竹地方検察署に対して刑事告訴を行いました。検察は同月26日に被疑者が帰国した際に家宅捜索を行い、被疑者を出国禁止としましたが、10月中旬にはその処置を解除しました。これに対してAUOは不満を表明し、また経済部長も立法院に対して関連刑罰を引き上げる法改正を行うことを要求しました。

 報道によると、AUOはAMOLED技術は「AUOが持つ9,800件を超える特許の中でも最高機密に属するもの」だと主張しているそうですが、告訴された中国企業は「特許である以上、機密ではない」と反論しています。

 この事件の真相については、近い将来裁判所の判決によって明らかになることでしょう。筆者としては、AUOの同業者告発という対応に、最高裁判所が10月19日に出した判決を思い出さずにはいられません。

DC台湾のケース

 その案件の告訴人である台湾陶氏化学(ダウ・ケミカル台湾、DC台湾)は、2004年8月に、当時「留職停薪(無給休暇ただし職務保留)」だった高給管理職が、会社の機密資料を大量にダウンロードし、同業者に売り渡そうとした、または自らそれらを利用して創業し、不当競爭を行おうとしたとして告訴しました。この案件でDCは、被害想定額は200億台湾元にも上ると主張しました。当時上海で創業していた被告は、検察からの呼び出しを受け台湾に帰国、作業用の携帯型ハードディスクも検察に提出しました。

 その後、告訴人は分析により、ハードディスク内のデータは1万件にも上るCRI(Central Report Index)技術レポートと、「Imperial Project」という名称が付けられた新製品の研究開発計画に関するファイルであることを発見しました。検察は05年7月に被告を「未獲允許取得電磁紀錄(許可なくデータを取得した)」罪、「未獲允許重製著作(許可なくデータをコピーした)」罪、および「業務侵占電磁紀錄(業務上データ横領)」罪で起訴しました。被告の弁護士はハードディスクの内容を確認したいと申し出ましたが、告訴人に「営業機密の保護」を理由に拒否されました。

 被告の主張は以下のようなものでした。▽被告はDC台湾の親会社であるDCカンパニーのアジア太平洋地区ポリウレタン製品最高顧客サービス技術責任者であるため、CRI技術レポートの収集はその職務上必要であった▽DCカンパニーは長年にわたりその行為の存在を知りつつ同意していた▽Imperial Projectに関するファイルを取得した目的は、発泡体が崩れ落ちる問題を解決し、当該計画の手伝いをしようとしたため▽ハードディスク内のデータを削除しなかったのは、将来復職時に利用するため▽1年の留職停薪中に創業することについてはDCカンパニーも同意していた──。

裁判所のミス

 台北地方裁判所は08年12月に被告に対して2年10月の懲役(減刑後1年5月)、および出国禁止の有罪判決を下しました。これに対して被告は控訴しましたが、知的財産裁判所は2度にわたり有罪の判決を下しました。その後、最高裁判所の2度目の破棄差し戻しを受け、知的財産裁判所は12年6月に以下のような逆転判決を下しました。

1)CRI技術レポートについて
 DC台湾はCRI技術レポートの著作権者でも管理人でもないため、犯罪行為の被害者とはなり得ず、告訴を提起することもできない。検察官はこの点を調査せずに起訴したため、この点については判決において受理をしない。

2)Imperial Projectデータについて
 この点については誰も告訴を行っていない。この点については判決において受理をしない。

3)業務上データ横領について
 検察官が起訴の根拠とした法律は03年に改正され削除されている。そのため、この点については無罪とする。

 知的財産裁判所は判決後、出国禁止を解除しました。その後、最高裁判所は、10月19日付で検察の上告を棄却し、全案が確定しました。しかし、案件確定に至るまで、被告の弁護士はハードディスクの内容を確認することができませんでしたし、被告が上海に創業した会社も、被告の出国禁止処置に伴い営業を終了してしまいました。

 知的財産裁判所の判決を見る限り、この事件はまったくもって「裁判所のミス」だったわけですが、それでも8年もの歳月を費やし、ましてや被告の出国の権利を4年間も奪い続け、創業の機会までもつぶしてしまいました。

 「AUOが提供すべき関連工業技術に関する資料が不足している」という前述のAUOの担当検察官の発言からしても、台湾の司法当局は、これらの案件から一つの教訓を学び取ったと見ていいでしょう。 

徐宏昇弁護士事務所

TEL:02-2393-5620 
FAX:02-2321-3280
MAIL:hubert@hiteklaw.tw

産業時事の法律講座