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第130回 営業秘密法に刑事罰導入


ニュース 法律 作成日:2013年2月27日_記事番号:T00042311

産業時事の法律講座

第130回 営業秘密法に刑事罰導入

 営業秘密法改正案が立法院を通過し、1月30日に総統によって公布され、施行されました。営業秘密法はこれまで刑事罰規定が設けられていませんでしたが、今回の改正で以下のような刑事罰規定が設けられました。

 自己または第三者の不法な利益、または営業秘密の所有者の利益の損害を意図し、下記の行為を行ったものは5年以下の有期刑に処す。

・不正な方法により営業秘密を取得する行為
・不正な方法により営業秘密を取得した後にそれを使用、漏えいする行為
・同意を受けずに、または同意された範囲を超えて営業秘密を複製、使用または漏えいする行為
・営業秘密の所有者の指示に従わず、営業秘密を削除、廃棄しない、または隠匿する行為
・営業秘密が不法取得されたものであることを知りながら、それを取得、使用または漏えいする行為

未遂犯も同等の処罰

 今回の法改正には、立法技術上、以下のような特色があります。

・未遂犯の処罰:営業秘密を盗み取る行為の未遂犯に対して既遂犯と同等の処罰を科す
・高額罰金刑の採用:罰金金額を100万〜1,000万台湾元の間に設定し、また犯人の得た所得利益が罰金の最高額を超えた場合、所得利益の3倍まで罰金として科すことができる
・技術輸出の加罰:もし、営業秘密を海外、中国または香港、マカオで使用することを意図して営業秘密を盗み取った場合、1年以上10年以下の有期刑もしくは300万元から5,000万元の罰金に処し、またはこれを併科することができる。また、所得利益が5,000万元を超えた場合、所得利益の2〜10倍を罰金として科すことができる
・公務員の処罰:公務員または公務員だったものによる犯行の場合はその罪の2分の1を加罰する
・法人の免責:法人が犯罪の発生を防止することに尽力していた場合、当該法人は処罰を受けない

営業秘密の判断が困難

 しかし、営業秘密に関する犯罪と判断されることは簡単なことではありません。法律上の「営業秘密」は以下の要件を満たしていなければなりません。

・生産、販売、経営に対して使用される情報であること
・当該情報に係わる者が、一般的に知ることができない情報であること
・その秘密性により、事実上または潜在的な経済価値を持つ情報であること
・所有者がすでに秘密保持のための合理的な処置を採択していること

 このような要件の最大の問題点は、秘密の所有者が、秘密保持のための合理的な処置を採択しているかどうかが情報が営業秘密となるかどうかの判断基準の一つとされている点です。通常、提携企業間、雇用主と被雇用者間など、いわゆる商業上の協力者・取引者間では、相当程度の企業秘密が共有されることが一般的です。協力・取引開始時に秘密保持契約が交わされたとしても、それだけでは所有者がすでに秘密保持のための合理的な処置を採択したとはいえないため、相手側が企業秘密を漏えいしても、通常は犯罪とはなりません。

 また、営業秘密は通常公開されないため、その権利帰属を証明することは難しいものです。所有者が当該営業秘密を所有し、被告が所有している情報が同じ情報で、所有者を出どころにしていることを証明しなければなりません。そうでなければ被告は、当該営業秘密は自ら独自に開発したものであり、たまたま同じような内容となっていると主張するでしょう。

 さらに「未遂犯」の処罰については適用そのものが難しいでしょう。なぜならば、「特定の営業秘密を盗み取る行為の未遂」とは一体どのような行為を指すのか、それ自体が想像し難いからです。

 公布されている条文を見る限り、起こり得る案件としては、営業秘密の所有者が削除または廃棄を要求したにもかかわらず、相手側がそれに従うことを拒否したといったような案件でしょう。また、このような案件は従業員の離職または同業者間の提携が終了した際に発生することが考えられます。

 営業秘密の侵害に関する刑事案件の成立は難しいとしても、今回の法改正により、業者は積極的に営業秘密法の刑事告訴を行い、裁判所に捜査を申請し、相手の会社に乗り込み、違法の証拠を捜すといったような案件が発生するでしょう。このような現象は、台湾では法律が改正されるたびに起こるものですが、皆さんも細心の注意を図られることをお勧めします。 
 

徐宏昇弁護士事務所

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