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第132回 後悔先に立たず


ニュース 法律 作成日:2013年4月10日_記事番号:T00043001

産業時事の法律講座

第132回 後悔先に立たず

 台湾にいる日本人の方なら、故テレサ・テンさんの「月亮代表我的心」という歌を1度は耳にし、歌われたことがあると思います。この曲の作者は孫儀氏(本名:孫家麟)で、1966年から86年の間に127曲の作曲を手掛け、当時のメジャーレーベル「麗歌唱片」がそれらの曲の著作権登録を行いました。

 孫氏は香港の百代公司との別案件の証言のため、09年3月23日に台北地方裁判所検察署に赴いた際、前述の127曲の著作権者が麗歌唱片名義になっていることを発見しました。そのため孫氏は「麗歌唱片に127曲の著作権がないことを確認する」裁判を知的財産裁判所に提訴しました。

 知的財産裁判所は審理の後、10年12月27日に孫氏勝訴の判決を下しました。その理由は

1)麗歌唱片の提出した「著作権譲与契約書」には孫氏の署名、捺印がないため、麗歌唱片が著作権の譲与を受けたことを証明することはできない。

2)麗歌唱片は「出資者としての著作権者の地位」を主張したが、的確な証拠を提出することができなかった。

 麗歌唱片がこの判決を不服として控訴したため、知的財産裁判所の第二審では12年1月5日に、孫氏の要求を退け、麗歌唱片に127曲の著作権があることを認める判決を下しました。

歌手ありきの作詞・作曲

 知的財産裁判所がこのような逆転判決を出すきっかけとなった証拠は、69年から85年までの間、麗歌唱片の責任者を務めた陳春梅氏の証言でした。陳氏によると

1)陳氏の董事長在任中、麗歌唱片には20人を超える歌手が在籍していたため、曲の需要も大きかった。孫氏は当時付き合いのある作曲家の1人であった。

2)作曲の委託方法は、「どんな歌手にどんな歌を歌わせるかということをまず考える」というもので、まず歌手を決め、次にその歌手に合った曲を探していた。作詞および作曲の終了後、作詞、作曲者に対して報酬が支払われた。つまり、作詞、作曲者がそれぞれ自分の作品をレーベルに持ち込むという方法ではなかった。

3)作詞、作曲の終了後、著作権譲与書を作成していた。ただし、この譲与書は領収書の代わりとして扱われ、著作権登録を行うためのものだった。

 作詞、作曲家に対する報酬は、それぞれ2,000台湾元と1,000元、映画に使用する場合は5,000元だった。

 結果、知的財産裁判所は以下のよう判断を行いました。

1)台湾は70年から86年までの間は「歌手を中心とした作詞、作曲の時代」だった。つまり、作曲された曲が歌手に合わないと判断された場合、他の歌手が使える場合を除き、その曲はリリースされることはなかった。

2)麗歌唱片の台湾音楽産業界における当時の地位を考慮すると、支払われた報酬は「買取」の対価に相当する。

3)「月亮代表我的心」の流行の程度を見る限り、麗歌唱片がその曲で多大なる利益を得ていたことを孫氏が知らなかった訳はなく、その上で30数年にわたり異議を唱えなかったことに鑑みると、孫氏は自らの著作権が買い取られたことを認識していたと言わざるを得ない。

 これに対して孫氏は上告を行いましたが、最高裁判所は12年11月29日に上告を退け、案件は確定しました。

法制度の見直し時期に

 前述の知的財産裁判所の第二審は孫氏の敗訴判決を下しましたが、判決の中で以下のような指摘をしています。

 「このような『後悔先に立たず』というような状況は市場ではよくあることで、それは無形財産権の市場でも同様である」。孫氏が「30数年の時を経て、著作権を確認する本案訴訟を起こしたことには、主観的な法感情としては思うところはあるが、客観的な法規範にのっとれば、孫氏と上告人との間の取引は、当該楽曲が内政部に著作権登録される以前に確定しているため、事後の環境変化や市場の発展などの要素により変更され得るものではない」。

 孫氏がこれらの歌を作曲した30数年前の台湾では、既に多くの作曲家とレーベルの間での著作権問題が発生していました。著名な作曲家である孫氏もその轍を踏んでしまったわけです。現在では、詞、曲以外の著作、例えばコンピュータープログラムなどの創作に関しても、作者と出資者の間での著作権問題が大きく取り上げられています。著作権法の「作者」に対する保護には根本的な欠点があるのかもしれません。法制度を見直すべき時に来ているようです。 

徐宏昇弁護士事務所

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