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第134回 林益世収賄事件判決についての考察


ニュース 法律 作成日:2013年5月8日_記事番号:T00043519

産業時事の法律講座

第134回 林益世収賄事件判決についての考察

 メディアで酷評されている林益世・前行政院秘書長の収賄事件の第一審判決ですが、判決結果そのものに打撃を受けたのは、国民党高官・議員の汚職排除を掲げながらも、その能力が無いことを露見されてしまった馬英九総統でしょう。

鉄鋼の廃棄物をめぐる利権

 中国鋼鉄(CSC)の子会社で、共に国営の上場企業である中聯資源は、同社ホームページの記載によれば「鉄鋼の製造過程で派生する副産物の適切な処理と利用」、つまり、CSCが鉄鋼を生産する過程で出る廃棄物に対して「適切な処理」を行うことを主要業務としています。事件を告発し、被告人ともなった陳啓祥氏は、地勇選鉱の責任者で、中耀企業を通じて中聯資源からスラグを購入し磁石の原料を取り出す処理を行っていました。

 2010年初頭、陳被告は競合他社が中聯資源よりスラグを購入しようとしていることを聞きつけたため、当時立法委員であった林益世被告に対し、中聯資源が中耀企業とスラグの購入契約を維持することのほか、中聯資源が販売している転炉スラグの購入契約締結への協力を依頼しました。陳被告は便宜を図ってもらった見返りとして6,300万台湾元余りを林被告に支払いました。

林被告の手練手管

 スラグについては、林被告の口利きの結果、中耀企業が順調に購入契約にこぎつけましたが、転炉スラグについては、それまで中聯資源から独占的に購入していた「永豊盛企業」が蔡豪・元立法委員に協力を依頼、林被告に対して抗議しました。そこで林被告は陳被告と再度協議を行い、最終的に地勇選鉱が中聯資源が販売する転炉スラグの3分の1を購入することで、全ての当事者間で話がまとまりました。

 その後、中聯資源は転炉スラグの購入者資格条項の中から、▽過去5年以内にCSCの転炉石処理用地の開発に協力したこと▽過去5年以内にCSCの転炉石処理用地における住民との紛争解決に協力したこと──などの2条項を削除したほか、最新の評価基準で「不合格」だった地勇選鉱に対して再評価を行い、「合格」とした上で契約に臨みました。

 その間、中聯資源の副総経理だった金崇仁氏は契約締結の阻止を図ろうとしました。そこで林被告は、「金氏の交友関係が複雑だ(蔡前立法委員との関係を示唆)」として「金氏の副総経理の任を解く」という脅しをかけることで最終的に金氏を従わせました。その後、前記の転炉スラグの売却案は再度、公開入札にかけられることはありませんでした。永豊盛企業はそれを不服としながらも異議を申し立てず、既に締結していた契約書を返却しないことで抗議を行いました。

 今回の判決で認定された事実から、以下のことが分かります:

1)スラグも転炉スラグも鉄鋼製造時に排出される廃棄物だが、利益率が極めて高い。もしそうでなければ2年間の売買契約(転炉スラグに限っては排出量の3分の1のみ)に6,300万元もの報酬を支払う訳がない。それだけの価値があるにもかかわらず、CSCや中聯資源がそれらの廃棄物を自ら処理して利益を得ようとせず、売却という手法を採るのは、それらの処理が重大な環境汚染を引き起こすためである。

 本案では、廃棄物を購入した企業がどこにあるのか、どのような方法でそれらを処理すれば、支払った報酬に見合うだけの巨額の利益を得ることができるのかについて誰も疑問を呈していない。中聯資源の「転炉スラグの購入者資格条項」や判決文に記載のある「転炉石開発用地における住民との紛争」とは何のことなのかについて、注釈をつけるべきであろう。

2)廃棄物の処理は重大な環境汚染を引き起こすため、業者は政治家に頼らざるを得ない。そのため、廃棄物の購入を希望する2社は、いずれも立法委員に協力を求めた。しかも立法委員が現役か否かの違いが「売却先選択制度」よりもその結果に影響した。

3)中聯資源が採択していた「売却先選択制度」は特定の業者を優待していた疑いがあった。2条項が削除された後の制度に対しても、裁判所は「特定の業者(地勇選鉱)のために設けられていたことは明らかである」と判断している。

4)また判決によると、地勇選鉱は契約を締結することはできたが、中聯資源が「永豊盛企業に良質の転炉スラグを全て納品してしまった」ため、地勇選鉱は損失を受けたとしている。上には上がいるということか。

環境・住民が最大の被害者

5)もしこれらの考察が正しければ、本件は誰が落札したとしても、最大の被害者は台湾の環境と、転炉石処理用地付近の住民である。本件は本質的には「略奪品の分配行為」であり、「弱肉強食」の原則の上に成り立っている。裁判所は林被告の行為を「収賄」ではなく、「恐喝」というチンピラ的な行為だと糾弾した。国民党籍の立法委員のリーダーだった林被告にとって、まさにふさわしい断罪と言える。

徐宏昇弁護士事務所

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