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第137回 弁護士費用の賠償請求


ニュース 法律 作成日:2013年6月26日_記事番号:T00044395

産業時事の法律講座

第137回 弁護士費用の賠償請求

 読者の皆さんもご存知のように、台湾の裁判所は弁護士費用を不必要な費用と見なしています。そのため、訴訟当事者が支払った弁護士費用は「損失」とは見なされず、相手方に請求することができません。また、必ず弁護士が代理人を務めなければならない第三審についても、最高裁判所は数万台湾元しか弁護士費用を認めないのが現状です。

 知的財産裁判所は2012年の確定判決の中で、当事者間の契約に特別の規定がある場合、契約違反をした当事者に対して弁護士費用を請求することができるという判断を下しました。

 この案件は、永奕科技(ヨン・テクノロジーズ)が艾生公司の生産する「Passive RFID E−Seal」製品を販売するという契約の中に「もし第三者が知的財産権の侵害を主張した場合、艾生公司が訴訟費用および鑑定費用、専門家費用、合理的な範囲内での弁護士費用を負担する」との約定が設けられていたことに端を発します。

 製品の販売が開始された後、第三者である辛耘(サイエンテック)は当該製品の特許権侵害訴訟を提起しました。永奕科技は弁護士に特許の有効性の評価と応訴を委託、一方で艾生公司は、永奕科技との協議の後、初期判断として「徹底的に応訴する」ことを決めましたが、「1〜2日の考慮が必要」として、即時決定を避けました。

 その結果、永奕科技の弁護士が法廷で特許権の侵害を認め、艾生公司とサイエンテックは和解し、艾生公司がサイエンテックに損害賠償を支払いました。以後、永奕科技はサイエンテックからRFID製品を購入することとなった一方、艾生公司に対して特許答弁の法律費用と、法律費用を求める際の弁護士費用を請求しました。

 これに対して艾生公司は▽永奕科技は協議の後に「徹底的に応訴する」ことで 最終的に合意したにもかかわらず、一方的に合意を破棄した▽永奕科技の弁護士が提出した特許無効に関する資料は、艾生公司が提供していた資料の域を出ていない▽永奕科技はそれらの資料を訴訟で使用することなく、特許権侵害を認めたため、当該弁護士費用は有益な費用ではない──などの理由から、艾生側がそれらの費用を負担する必要はないと主張しました。

艾生公司の敗訴

 このような主張に対して、第一審である台北地方裁判所、および第二審である知的財産裁判所は、共に以下のような認定を行った上で、艾生公司敗訴の判決を下しました。

1.双方の締結した契約書には、第三者が知的財産権の侵害を主張した場合、艾生公司が法律費用を負担するとの約定が設けられていた。双方当事者は訴訟開始当時にはすでに契約が終了していたが、本案当該製品は契約有効期間内にその販売が行われていたことが認められるため、艾生公司は当該法律費用を支払わなければならない。

2.台湾の法律では、民事訴訟は弁護士の代理でなければならないという規定はないが、艾生公司は訴訟中に弁護士に委任を行っていた。永奕科技にしてみても別途弁護士に委託処理する必要があったことが認められる。

3.永奕科技は訴訟中において特許権侵害を認めたが、そのことは艾生公司に対して弁護士費用を請求することの妨げとはならない。

4.永奕科技が支払った弁護士費用は、弁護士会の規定を超えたものではなく、その請求内容も合理的な範囲である。ただ、委任を行った弁護士のうちの1人は、当時まだいわゆる「実習弁護士」であった。そのため、当該費用は「弁護士費用」ではなく、「助手費用」というコストであるため、艾生公司はそれを負担する必要はない。

5.特許侵害訴訟案件においては、例えそれらの抗弁がなされなかったとしても「特許無効」と「侵害をしていない」との抗弁を行うための準備費用は必要経費であるため、艾生公司はそれを負担しなければならない。

6.艾生公司が前述の費用の支払いを拒否しているため、永奕科技は艾生公司を起訴してその支払いを求めなければならないが、当該訴訟に関する弁護士費用は双方の契約の範囲内のものではないため、艾生公司はそれを負担する必要はない。

7.永奕科技の在庫となってしまっている艾生公司の製品は、艾生公司がサイエンテックと和解したため販売ができなくなったのであるから、艾生公司は当該部分に対する損害賠償を行わなければならない。

 本案件は、台湾では極めて少数の法律費用の負担を認めたもので、かつ権利侵害をしている製品を提供した当事者に対して法律費用の負担を求めることについての原則的な説明を行った珍しい事例です。その判断内容に討論の余地がないわけではありませんが、原則的に読者の方々の参考となるものだと思います。ただ、一つ注意が必要なのは、本案件は知的財産訴訟の領域内における特例であり、他の領域についても本件のように法律費用の負担を求められると解釈することは難しいという点です。 

徐宏昇弁護士事務所

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