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第149回 特許の水際保護措置


ニュース 法律 作成日:2014年1月8日_記事番号:T00047971

産業時事の法律講座

第149回 特許の水際保護措置

 立法院は2014年1月3日に「専利辺境保護措施(特許の水際保護措施)」に関する特許法の改正を行い、輸入品が特許権を侵害しているかどうかを認定し、それを差し押さえる職権を税関に与えました。また、知的財産局を管轄する経済部と、税関を管轄する財政部が、改正法公布から2カ月以内に関連規制を設けることで、改正法が公布2カ月後から実施できるようにする旨の付帯議決を行いました。

 改正法が成立する以前、現行法における特許の水際保護措施に関する規定では、裁判所が特許を侵害している物品の輸入、輸出一時差し止めの「仮処分」裁定を行った場合、特許権者は税関に対して差し押さえを申請することができます。しかし今回の改正法の規制では、特許権者は裁判所による仮処分の裁定を経ることなく、税関に対して、差し押さえを直接申請することができ、税関が差し押さえの条件を満たしているかを認定することになります。

 税関が差し押さえを認める判断をした場合、特許権者は当該輸入物品の「完税価格(課税価格)」に相当する保証金または担保を提供することで、税関は差し押さえを行います。この際、差し押さえを受けた側は、2倍の保証金または担保を支払い、当該物品の差し押さえを解くことを申請できます。

誤りあっても救済なし

 ただ、改正法には差し押さえに誤りがあった場合の訴願、救済方式が何も設けられていません。一般の行政上の救済手続きによって申訴ができるのか否かは討論の価値のある問題です。

 現在の特許紛争処理の実務では、特許権者が裁判所に対して、特許の侵害者による侵害物品の使用、販売、輸入、輸出の禁止の「仮処分」を申し込んでも通常は許可されません。大部分の裁判官は、特許を侵害している物品であっても、流通を禁止する必要はなく、将来、特許権者が勝訴をした後に侵害者に対して損害賠償を請求すれば事足りると考えているからです。

 また、たとえ裁判所が仮処分の裁定を下したとしても、裁判所の執行処も、他の行政機関も、それを徹底的に執行することは難しいのです。なぜならば、特許侵害は科学技術上の判断が必要なため、侵害者が型番や、包装、外観を変えてしまった場合、執行機関としては認定が難しいからです。

専門能力の育成が鍵

 このような前提の下で成立した改正法では、税関による今後の執行において、特許侵害を判断できる専門的な能力をどのように養成していけばしっかりとした認定ができるのかが重要な鍵を握ることになります。この点については、税関に設けられた専門委員が専門家としての意見を提供し認定を行う、日本の特許水際保護措施が参考となるでしょう。

 改正法の規定では、特許権者は侵害物品を差し押さえた後、12日以内に裁判所に訴訟を提起しなければなりません。従って、差し押さえを受けた側が保証する担保を提供しない場合、当該物品は、裁判所による「確定判決」が下るまでの数年間の間、税関に留め置かれることになります。たとえ将来、特許権者の敗訴が確定、または裁判所が差し押さえている物品と特許が無関係である旨を確認したとしても、差し押さえを受けた側は、「差し押さえ物品の貨物延滞料、倉庫費用、搬入搬出費用」および「差し押さえを受けたこと、または保証金を提供したことにより受けた損害」だけしか特許権者に対して賠償請求を行えません。つまり、差し押さえを受けた側の「グッドウィル(のれん)」「商売」「市場」などの損害に関しては、賠償を受けることが難しいのです。

特許権者に極めて有利

 おかしなことに、特許権者が税関を説得し、極めて短期間で差し押さえの必要ありとの認定を受けさえすれば、差し押さえられた物品はゴミ同然となってしまうのです。しかも、将来の訴訟結果いかんにかかわらずです。しかし、実際のところ、台湾の裁判所の判決で、特許権者が勝訴する比率はわずか12.8%(第一審)しかないのです。特許権者の「正当性」を「12.8%」に換算すると、何らの救済制度も設けられていないというのは、特許権者を保護し過ぎでしょう。

 確かに立法院は各行政機関に対して2カ月以内に関連処置を制定し交付するよう求めましたが、改正法によりもたらされる問題は、それにより解決される問題よりも多いのです。行政機関がたった2カ月で実施までこぎつける規定にも、きっと問題が残っていることでしょう。

 とは言え、税関は著作権や商標権の物品の検査・禁止措施には非常にまじめに取り組み、多くの著作権者または商標権者からは好評価を受けています。将来、特許の水際保護措施が執行されれば、不当な結果を招かないよう、当事者が提出した証拠に対して厳格な審査を行うことになるでしょう。

 特許侵害認定の難しさ、水際保護措施のプロセスの「即時性」を考えると、双方の当事者は、高度な専門能力と経験を持った弁護士の協力を得ることでのみ、自らの権利を守ることができるでしょう。

徐宏昇弁護士事務所

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