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第152回 指輪設計の著作権保護


ニュース 法律 作成日:2014年2月26日_記事番号:T00048833

産業時事の法律講座

第152回 指輪設計の著作権保護

 最近話題を呼んだアダルトビデオに対する著作権保護判決ほどには、皆さんの関心を集めなかったようですが、知的財産裁判所が今年1月に出した指輪の設計に関する著作権判決は、重要な法律上の成果と言えるためご紹介させていただきます。

 この事件は、「倬新有限公司(以下「倬新公司」)」が、台湾市場において、「嘉龍金銀珠宝有限公司(以下「嘉龍公司」)」に指輪のデザインを盗作されたとして保護知慧財産権警察に対して告訴を行ったことを発端としています。その後の調査の結果、嘉龍公司が販売している指輪は中国・深圳製で、インド人Shah Kual Adipkumar(中国語名「沙‧比図」;以下「沙氏」)が香港から輸入していたものであることが判明しました。

 被告人である嘉龍公司は、▽この種の宝飾品の設計は、どれも大差がなく、著作権は存在しない▽指輪は被告人自ら設計したもので、倬新公司の著作権は侵害していない──と弁明していましたが、台北地方裁判所は被告人が倬新公司の著作権を侵害したとして、嘉龍公司の責任者に対して懲役6月、嘉龍公司に対して30万台湾元の罰金、沙氏に対して懲役5月の有罪判決を下しました。嘉龍公司はこれを控訴しましたが、知的財産裁判所は、嘉龍公司の販売していた指輪の中で、実際に著作権侵害となるものは検察官の起訴したものほど多くはないことを理由に、嘉龍公司の責任者を懲役3月、嘉龍公司を10万元の罰金とし、判決が確定しました。

指輪も美術著作

 知的財産裁判所は判決の中で、「係争の指輪は実用性を備えたものであるが、その設計内容は色彩・彫刻・造形などの美術的技術によって線、明暗、形状などを表現し、美的感覚を特徴として思想感情を表現する創作であるため、美術工芸品であることは明白であり、美術著作である」と判断し、指輪の設計は美術著作の一種であり、著作権法の保護を受けるものであるとしました。

 双方当事者の指輪が「近似」しているかどうかについて、知的財産裁判所は双方の指輪を比較した上で、倬新公司の指輪は「白金色とローズゴールド色を合わせたツートンカラーであるのに対し、嘉龍公司の指輪は白金色一色である。また、両者の指輪表面に刻印されている文字も異なる他、嘉龍公司の指輪の一面の中央にはくぼみがある」などの違いがあるが「双方向の水滴の形(半ハート型)をした指輪の面が交錯した先で一つになった円滑な線状が円をなして指輪になっており、指輪の片側には刻字がなされ、反対側にはダイヤモンドが埋め込まれている」など、両社の指輪はこれまでの指輪にはないデザインが用いられている。そのため、両者は「全体的な外観、および感覚は、すでに実質的近似に値するもの」であり、嘉龍公司の指輪は著作権を侵害していると判断しました。

 さて、著作権法の理論の基では、たとえ双方の著作が近似していても、被告が過去に著作権者の著作に「接触(アクセス)」したことを証明できなければ、著作権の侵害とは認められません。これは、著作権の処罰の対象としている行為は「盗作」であることによります。単なる「同時著作」は盗作とはなりません。

 この問題について、知的財産裁判所は、▽倬新公司の指輪は2010年8月にファッション雑誌「VOGUE」に掲載され、嘉龍公司の指輪も、過去にVOGUEに広告を掲載したことがある▽VOGUEはファッション業に従事するものにとってはなじみがあり、かつ参考としている雑誌である▽被告人、告訴人はともにジュエリーの売買に従事しており、競争関係にあった▽ジュエリー業はファッション産業であり、流行の変化に対して常に敏感である必要がある。そのため、同業者の作品には常に留意し、注意している──などの理由により、被告人には倬新公司の指輪の設計を知り得る合理的な機会・可能性があったとし、「接触」したことがあると判断した。

 過去、著作権に関する討論と案件は、そのほとんどが平面(二次元)著作でした。最もよく見られる立体(三次元)著作も、ぬいぐるみに限られていました。本案件は、第一審の台北地方裁判所、第二審の知的財産裁判所ともに指輪が三次元設計であり、著作権法の保護を受けることを肯定しました。これは著作権法にとって新しい考えを示した歴史的な意義があります。

 また、本案件において、被告人は「台北市金銀珠宝商業同業公会」での鑑定を申請していましたが、これについて知的財産裁判所は判決の中で「係争の指輪にオリジナルとしての創作性があり、著作権法保護を受けるかどうか、または侵害が疑われる指輪と係争の指輪は実質上の近似しているかなどについては、全て本件における本裁判所の審理の核心であるため、本裁判所が自らそれを判断することとし、鑑定に付す必要はない」との判断を示しました。このような見解も各界の参考に値するものでしょう。 

徐宏昇弁護士事務所

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