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第156回 司法院職務法廷


ニュース 法律 作成日:2014年4月23日_記事番号:T00049909

産業時事の法律講座

第156回 司法院職務法廷

 法官(裁判官)法47条は、司法院は「職務法廷」を設け、裁判官の懲戒事項・裁判官の職務および配置移動関連事項・裁判官の独立審判に影響する職務監督事項を審理すると定めています。簡単に言えば、職務法廷とは、裁判官の懲戒と不服申し立てに対する対応を行う裁判所です。

 制度上、職務法廷は裁判官の懲罰方式を直接宣告することはありません。裁判官の懲戒は、司法院人事審議委員会が決議します。そして、当事者である裁判官がその懲戒に対して不服がある場合、懲戒の取り消しを求めて職務法廷に訴えを提起することになります。つまり、職務法廷は司法院人事審議委員会の懲戒が合法かどうかを審理する法廷、ということになります。

 職務法廷は公務員懲戒委員会の委員長を審判長とし、4人の裁判官が陪席裁判官となる合議法廷で、当事者の口頭弁論を経てから判決を下します。

意見対立で2人に転出処分

 陳嘉瑜判事と陳世博審判長(以下、陳世博審判長は陳審判長、陳嘉瑜判事は陳判事とする)は共に台湾花蓮地方裁判所の裁判官で、陳審判長は陳判事の審判長でした。2012年11月、花蓮地方裁判所は、花蓮市議会の前主席である黃枝成氏が、その運転手を教唆し、同市議会議員の謝宜萱氏に傷害を負わせた傷害教唆事件を審理していました。

 しかし、担当裁判官であった陳判事と陳審判長の間で被疑者の勾留延期についての意見が食い違った結果、陳判事は陳審判長が賄賂を受け取った上で被告に有利な判断をしていると指摘、陳審判長の事務室前で大声で叫んだりもしました。陳審判長は、陳判事の言い分には全く根拠がない上、陳判事に対しては「被疑者の勾留を延期する理由が弱過ぎるため、世間からの批判を受ける可能性がある」と指摘したにすぎないと釈明しました。

 この事件はマスコミでも大きく取り上げられ、さまざまな議論が巻き起こりました。花蓮地方裁判所は、案件の審理には影響がないと判断、「不付処置(何らの処置もしない)」という決定をしましたが、司法院人事審議委員会は13年3月13日に、陳判事、陳審判長両名に対し「現在の着任地で職務を継続することは好ましくない」と判断し、陳判事を屏東地方裁判所判事、陳審判長を桃園地方裁判所審判長に任命するという決議を出しました。

全裁判官の半数が抗議

 さて、司法院人事審議委員会の構成委員23人中、11人は司法院が指定した人選で、残りの12人は各級裁判所が選出された人選であるため、司法院長は人事的影響力を持っていることになります。このため、前述の決議を行った際、一審裁判所から選出された6人の委員は、司法院長が「人事的強制権を利用して裁判官の独立審判権に干渉している」ことを不服として、抗議の退席を行いました。その後、台湾全体の裁判官の約半数に上る900人を超える裁判官がこれに呼応し、司法院の「独立審判に対する妨害」に対し署名での抗議を行いました。

 このような強力な抵抗圧力の下、司法院人事審議委員会は13年4月10日に本案の再審理を行い、投票の結果、陳審判長に対する処分は取り消されました。しかし、陳判事に対する処分は前回の決議が維持されました。陳判事はその決議を不服とし、処分の取り消しを求めて司法院職務法廷に対して訴えを提起しました。

訴えは棄却

 今年4月10日、職務法廷は、以下の理由により、陳判事の訴えを退ける判断を下しました:

1.原告が広めた伝聞「黃枝成の傷害事件については、すでに裏で手が回っており、黃枝成が裁判所に来た際には必ず釈放される」は、司法院政風処が2人の伝聞の元々の発信者に調査をしたところ、2人ともこのうわさはテレビ・新聞の報道および刑務所内の受刑者の間で聞き及んだだけのものであった。そのため、係争伝聞は確証を経た事実ではないことが明らかである。

2.原告が確証を経ていない「裁判官が賄賂を受け取った」という伝聞を広めた結果、裁判所内の雰囲気に悪影響を与え、裁判官の汚れない作業環境を妨害するに至った。また、裁判官の正しい振る舞いは人民の裁判所・審判に対する信頼にも大きく関わっており、裁判官が賄賂を受け取ったとの伝聞が広く広められた結果、裁判所の公正な印象がおとしめられていないとは言い難い状態になっている。

3.原告は、花蓮地方裁判所長が原告の職務を移動させた後も伝聞を広め続けていることからも、花蓮地方裁判所内部の処理方式では、原告の行為が審判の内在・外在に与える環境上の影響を正すには至っていないことが明らかである。

4.司法院人事審議委員会は法官法の授権により設けられているため、原告に対して下した処分は、憲法81条における裁判官の任地の移動に対する法律保留の原則規定に違反するものではない。また、係争処分は、憲法80条における裁判官の審判独立に関する憲法上の原則を侵害するものでもない。

 一般には、政府が人民に対して悪事を行う際の後ろ盾となっていると思われがちの裁判所ですが、この案件を見る限り、裁判官の懲戒は「内規」的な方式で処理されているようです。つまり、裁判官の「独立審判」の特別保障は、特に一般人より高い保障ではないようです。 

徐宏昇弁護士事務所

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