ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第151回 民事強制調解制度


ニュース 法律 作成日:2014年2月12日_記事番号:T00048554

産業時事の法律講座

第151回 民事強制調解制度

 民事訴訟法第403条には、交通事故または医療紛争に関する争い、雇用者と被雇用者間の雇用契約に関する争い、およびその他係争金額が50万台湾元以下の財産権に関する争いは、起訴前に裁判所での調解(日本の調停に相当)を行わなければならないという、いわゆる「強制調解」の規定が設けられています。

 この規定によると、民事案件の原告が調解を経ずに起訴した場合、裁判所は起訴状を受理した後、案件を調解に移送します。調解は名目上は裁判官名義で行われることになっていますが、実際は「調解委員」の主導の下で行われます。

出頭しなければ過料も

 強制調解の「強制」とは、これらの案件は全て必ず調解を経なければいけないという意味ではなく、裁判官が必要と認めた場合、民事訴訟法の規定に従い、当事者本人またはその法定代理人本人が裁判所に出頭し、調停に参加しなければならないという意味です。出頭を命じられた者が正当な理由なく出頭しなかった場合、3,000台湾元以下の過料が課せられます。つまり、裁判官が当事者本人の出頭を求めたにもかかわらず、代理人が出頭した場合でも過料が科せられます。

 そのほかにも、裁判官が必要と認めた場合は、当事者に現状変更の禁止を命じたり、目的物の処分、または一定の作為または不作為を命じることもでき、当事者がそれに従わない場合は、3万元以下の過料が科せられます。

 この規定の「立法理由」には、少額訴訟案件を一般の訴訟プロセスで解決を図った場合、当事者、裁判所を問わずその労力・費用・時間と、係争金額との間での不均衡が起こるため、調解プロセスでの解決を図ることで、長く複雑な訴訟プロセスを避け、係争を迅速に解決することができるとあります。

 確かに、訴訟プロセスは複雑で、時間も労力もかかります。双方当事者が公平な裁判を受けるためにこのような制度上の設計は必要です。ところが、台湾の司法支援は現在では誰でも専門家に委託して訴訟を行うことができるレベルにまで成熟しました。訴訟プロセスが複雑かどうかはもはや問題ではないのです。

 さらに、民事訴訟法では、当事者が数度にわたって裁判に出頭しなかった場合の最悪の結果は敗訴です。それと比べ、迅速な問題解決を図るために設けられたはずの調解制度の当事者が、出頭しないことに対する処罰が過料というのは、適当ではありません。

 また、調解の経験がある経営者の方ならご存知だと思いますが、調解制度は商業上の紛争を解決することに関しては全く無力です。なぜなら、生活上の法律問題の調解しかできない調解委員は、出頭者が弁護士だというだけで、調解が不可能なことを悟ります。ですので、当事者は弁護士を代理に立て出席させます。つまり、弁護士を1回余分に出席させなければならないのです。

 例えば、台北から新竹、苗栗、台南などの地方裁判所へ出頭する場合、どこも交通の便が悪いので、1回余出席するだけで、1日がかりです。こんな強制調解制度では、被告に処罰を加えているのと何ら変わりありません。

調停は裁判にあらず?

 さらには、台北地方裁判所の「調解好処説明書(調解利点説明書)」には、「双方当事者が調解中に行った陳述や譲歩は裁判官が裁判を行う際の基礎とはなりません」、つまり、調解時に行った討論中の発言は訴訟資料とはならない、との記載があります。

 しかし、筆者が担当したことのある案件の中には、調解不成立後の開廷時に、裁判官が当事者に対して、当事者が調解時に行った陳述に関する説明を求めたことがあります。また、別件の刑事事件では、裁判官は、被告人が調解中に賠償を行うことを認めたことを理由に、調解そのものは成立しなかったにもかかわらず、執行猶予付き判決を出したこともありました。しかしこれらの案件において、裁判官は調解の場にはいませんでした。

調停委員が職業化

 強制調解の実施によって、調解そのものが1つの「職業」となりました。例えば、台北地方裁判所の公布している調解委員の名簿を見ると、職業欄が各地の各種調解機構の調解委員となっている人がいます。また、大学の法学部では「調解師」の訓練課程を設け、証明書まで発行しているところもあります。調解委員の多くは一般的に弱者に同情する傾向があり、もし当事者の一方が譲歩・和解を嫌がる場合は、その理由の説明を求めることもあります。

 台湾で商売をしていると、争い事やいざこざからの法律沙汰は避けられないものです。もし読者の皆さんが調解通知を受け取ったら、ぜひ慎重に対処してください。

徐宏昇弁護士事務所

TEL:02-2393-5620 
FAX:02-2321-3280
MAIL:hubert@hiteklaw.tw  

産業時事の法律講座