第91回 民進党、336万票の落差の意味


ニュース 政治 作成日:2020年1月20日

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第91回 民進党、336万票の落差の意味

記事番号:T00087977

 総統・立法委員選挙が終わって1週間がたった。台北の街は蔡英文氏が再選を決めるべくして決めた結果に安堵(あんど)し、春節(旧正月、2020年は1月25日)を前に華やいだ雰囲気に包まれている。有権者による直接投票の総統選はもう7回目で、激しい選挙戦が終わった後は、日常生活への切り替えもスムーズなものだ。

/date/2020/01/20/20column1_2.jpg民進党の謝恩パーティーであいさつする蔡総統(左上)。中国からの圧力は強まりそうだが、国際社会の支持が強まっていることは大きい(17日=中央社)

 周知のように総統選は蔡氏が野党・国民党の韓国瑜氏に圧勝、立法委員選も与党・民進党が目標の単独過半数を維持して完全勝利となった。それでも、民進党が「後退」した側面は注目しておくべきだろう。民進党は蔡氏の得票817万票に対し、立法委員比例代表の得票数は481万票で実に336万票もの落差が生じた。しかも比例の得票率は前回16年の44.1%から今回33.9%へと約10ポイントも下落した。民進党は今回立法院の議席数を68議席から61議席に7議席減らしたが、このうちの5議席が比例代表だ。

 民進党はわずか1年2カ月前の統一地方選で惨敗を喫したことが改めて思い出される。当時は県市長ポストを13県市から6県市に減らし、蔡政権の失政に不信任が突き付けられた形となった。蔡氏は同選挙後も内政で目を引くような実績を挙げたわけではないものの、今回の総統選では中国・習近平政権の強圧的な対台湾政策、香港の反中デモによって台湾にとって最重要課題である両岸(中台)関係が前面に出た結果、内政運営が争点にならず、有権者の対中危機感に乗って勝利できた。

 総統選はいわば両岸政策の住民投票だったといえる。現在の情勢では中国に融和的な指導者を選べるわけはなく、台湾の主権堅持が最優先との民意が蔡氏の総統選過去最多得票によって表明された。一方で立法委員選では、蔡政権の実績からフリーハンドで権限を与えるわけにはいかないとの判断が、比例代表336万票もの落差に反映したとみられる。

若者が小政党に投票

 比例では、柯文哲台北市長の率いる新政党の台湾民衆党が158万票、公平正義の実現を掲げる時代力量が前回比25万票増の109万票、民進党よりも台湾独立色の強い台湾基進が44万票を獲得した。比例で民進党に投票しなかった有権者層は、あえて大ざっぱに分ければ中高年層は国民党、若年層はこれら小政党に投票した。民進党へのけん制の他、自分たちと近い世代の党による特定分野でのより先鋭な主張に期待を寄せたものだ。

 ちなみに立法委員選における民進党と国民党の二大政党の合計得票率は、08年の88.1%から今回は67.3%に低下した。両岸関係は二大政党の以外の選択肢はないが、内政は必ずしも民進党または国民党でなくてもよいわけで、次回24年は政党の規模にかかわらず実績と期待度によって投票先を決める傾向がさらに強まることだろう。台湾の民意の振れは早く、幅は大きいため、蔡政権は次の4年間で、労働問題やエネルギー対策、若者の低賃金や住宅問題などの重要政策課題への対応で有権者の不評を招いた場合、票は再び国民党や小政党に流出してしまう。現時点では民進党が再び人々の信頼を失う可能性も、国民党が再起できる可能性も十分あると考えられる。

/date/2020/01/20/20column2_2.jpg国民党主席を引責辞任した呉敦義氏(中)。国民党は今後の両岸路線に変化が加えられるのか注目される(17日=中央社)

〈連載後記〉

 当コラムは14年からほぼ5年にわたり連載を続けてまいりましたが、今回で終了となります。台湾は国家と住民アイデンティティー、大国と小国の国際関係、日本との歴史的関係、華人と民主主義、人種、言語、文化など実に多様な興味の切り口を提供してくれる場所で、当地で通算17年暮らした筆者も「そうだったのか」と新たに気付かされることがいまだに多々あります。

 当連載は台湾政治の面白さを伝えたいと考えて始めたものですが、頓珍漢(とんちんかん)な観点を書いて後悔したことも少なくありません。台湾社会の多面性を反映する政治は複雑かつ理解が難しく、大局的な観点と細かな動きから潮流の変化を読み取る能力が問われ、日々あれこれと考えながら取り組んでまいりました。

 台湾は蔡総統が再選され、新たな20年代を迎えました。中興の時代となるのか、激動に見舞われるのか、うまく行くことを願いつつ展開を今後も見守っていきたいと思います。これまでご愛読いただきまして誠にありがとうございました。

吉川直矢

吉川直矢

ワイズメディア

東京外国語大学中国語学科卒。大手放送局記者、海外経済情報メディアでの編集長職を経て、07年Y'sニュース創刊に参加、以来編集長を務める。専門分野は台湾政治。

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