第87回 郭氏不出馬、柯市長が敗者に


ニュース 政治 作成日:2019年9月23日

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第87回 郭氏不出馬、柯市長が敗者に

記事番号:T00085890

 鴻海精密工業の董事長を離れてまで総統になることを目指した郭台銘(テリー・ゴウ)氏が16日、5カ月間にわたった戦いの旗を降ろした。これにより「第三勢力」が民進党、国民党の二大政党に取って変わる可能性が失われ、来年1月の総統選挙は従来と同様の、二大政党による事実上の一騎打ちとなることがほぼ決まった。選挙戦の「面白み」は大幅に減じてしまったと言ってよい。

/date/2019/09/23/20column1_2.jpg郭台銘氏(右2)。国民党が韓氏支持でまとまったことも誤算だった(中央社)

 郭氏と柯文哲台北市長が主導する第三勢力は、一時は総統選世論調査で民進党の現職、蔡英文氏と国民党の韓国瑜高雄市長を抑えて首位に立ち、大いに有権者の注目を集めた。

路線異なれど最良の連携相手

 郭氏は鴻海を町工場から世界的大企業に成長させた手腕や、習近平中国主席やトランプ米大統領とも面識を持つ人脈などから、台湾に新たな革新をもたらせるとの期待感によって、国民党支持のインテリ層から民進党支持ながら独立色の薄い層をも含む幅広い有権者の支持を集めていた。一方、柯氏は中間層や若者層に人気があり、両者が連合して支持者を拡大することで総統選を戦えるとの思惑が成立した。

 両者はもともと路線が異なっていた。郭氏の政治的立場は統一色が強い「深藍」だ。柯氏はかつては民進党支持だったが、台北市長当選後は蔡政権と一線を画し、中道路線を志向してきた。「郭柯連合」と称されてはいたが、両者の間に密接な連携があったわけではなかった。

 郭氏が不出馬を決めた翌16日、柯氏はメディアに対し、情報を知ったのはメディアよりほんの少し早かっただけだと打ち明けた上で、「皆さんと同じようにショックだ」と動揺を隠さなかった。郭氏と柯氏は共に、お互いを連合を組む相手として最良と考えてはいたが、蘋果日報の報道によると、郭氏は最終的な不出馬判断を、柯氏とではなく政治評論家の趙少康氏、郝龍斌前台北市長(国民党副主席)の2人と相談し、勝算は薄いとみて決めたという。

鉄の意志は生かされず

 筆者はこの十数年、ニュース編集者として台湾の政治と経済を見てきたが、郭氏ほど先見性があり、実行力とスピード、細部へのこだわりを追求した経営者を他に知らない。郭氏を長年取材した日本人ジャーナリストによると、鴻海は数年前まで午後10時から幹部会議を開くことは珍しくなく、幹部は世界のどこにいても、郭氏の号令一下、直ちに台湾に戻らなければならなかった。

 「45年間、1日16時間働いてきた」という鉄の意志で鴻海帝国を築いた郭氏が総統になっていた場合、台湾にどのような変化をもたらしたのか見てみたかった気もする。

勢力拡張の機会失う

 郭氏不出馬で敗者となったのは柯氏だろう。報道によると、柯氏は、副総統候補としてペアを組んでほしいとの郭氏の要請を拒否し、この回答が郭氏の不出馬決断の鍵になったとされる。

/date/2019/09/23/20column2_2.jpg柯市長は「策士策に溺れる」の観がある。従来の立場を変えて自身が総統選に出馬する手がまだ残されているが、「郭柯ペア」ほどのインパクトは期待できない(中央社)

 郭氏にとっては、総統選の仕切り役への就任を求めた趙氏から、「郭柯ペア」の実現を条件の一つとして挙げられたための要請だったが、柯氏は「『郭柯ペア』でも『郭柯連合』でも大差はない」と断ったという。事実であれば、全ての有力者が立候補に消極的な姿勢を見せたことが結局惨敗の結果を招いた、16年総統選の国民党を想起させる。 

 柯氏は第三勢力として伸長するための最大の手段を失った。引き続き自身の台湾民衆党の立法委員選挙での議席獲得を目指す構えだが、期待感は一気にしぼんだといえる。仮に数議席を獲得できたとしても、柯氏は22年には台北市長を退任して行政リソースを失ってしまう。同党は過去の第三勢力と同様、泡沫(ほうまつ)化へ向かう未来が今から予見できるようだ。

吉川直矢

吉川直矢

ワイズメディア

東京外国語大学中国語学科卒。大手放送局記者、海外経済情報メディアでの編集長職を経て、07年Y'sニュース創刊に参加、以来編集長を務める。専門分野は台湾政治。

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