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第85回 韓国瑜市長、支持の限界


ニュース 政治 作成日:2019年7月30日_記事番号:T00084898

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第85回 韓国瑜市長、支持の限界

 国民党は28日開いた全国代表大会(党大会)で、韓国瑜高雄市長を総統選候補に正式指名した。韓氏は「台湾安全、人民有銭(台湾が安全で人民を豊かに)」のスローガンで総統選を戦うことを表明、党の団結を呼び掛けた。

 しかし、党大会には侯友宜新北市長や、予備選で韓氏に敗れた郭台銘(テリー・ゴウ)鴻海精密工業前董事長は欠席。王金平前立法院長も会場滞在を短時間にとどめ、記念写真に加わらなかった。現任の呉敦義氏を含め、連戦氏、馬英九氏、呉伯雄氏ら主席経験者も韓氏指名を見届けた後、すぐに会場を後にした。前日に郭氏の予備選敗北を不満とする支持者らが、無所属での出馬を求める署名活動を展開したことを含めて、同党が政権奪回に向けて一丸となるどころか、まとまりのない印象を与えてしまったことは否めない。

 聯合報による直近の世論調査によると、国民党支持層で韓氏を支持するのは73%にすぎず、20%以上が支持しないか、まだ支持者を決定していない。求心力の低さは、韓氏が総統候補として異色の人物であることと関係している。

「ルーザー」に人気

 韓氏の人気を支えるのは統一色の強い「深藍」(韓氏は軍人家庭出身の外省人)、地方派閥(妻の李佳芬氏は雲林県の政治家一族出身)、それに「ルーザー」、社会的敗者との指摘がある。韓氏は2002年、44歳で立法委員を退任した後、党から要職を与えられず、特に13年に台北農産運銷(北農、TAPMC)総経理に就任するまでの5年間は無職状態だった。そのような国民党リーダーとしては珍しい非エリートであるがゆえに、庶民層から親近感を抱かれる。韓氏の「台湾は20年間の時間を無駄にしてしまった」との訴えを、庶民層は「われわれの経済的な困窮は与野党のエリート政治が無力だったため」と受け止め、「韓氏と共にエリートたちから権力を取り戻そう」と意識を高揚させるというわけだ。

/date/2019/07/30/20column1_2.jpg韓氏は「苦しい人が多くいることを忘れている」と民進党批判に力を込めた(中央社)

 韓氏を支持する庶民層の情念は強い。ただ、大企業勤務など生活レベルが中間以上の層は違和感を感じざるを得ない。台湾の総統には本来はしかるべき実績や知見の深さ、国際感覚が必要なはずなのに、韓氏は明らかにそれらに欠けているからだ。「本来の候補者」を求める層は予備選で郭氏を応援したが、「世論調査を電話の前で待機した」と伝えられた韓氏支持者の前に敗北した。恨みを持った彼らには、本番で韓氏に投票しない者が多く出そうだ。

罷免運動も開始

 韓氏には「高雄市長4年の任期を全うする」と公言していたにもかかわらず、何ら実績を上げないまま兼任で総統を目指すのは不見識との批判が依然存在する。高雄市では既に罷免を目指す署名活動も始まっている。

/date/2019/07/30/20column2_2.jpg国民党大会と同時に高雄市で行われた韓氏の罷免集会。韓氏は総統選に敗れた場合、続けて高雄市長の座も失う可能性もある(中央社)

 今や「赤色メディア」と公認されるに至った、中国時報や中天電視(CTI)を抱えるメディアグループ、旺旺中時媒体集団から強い支持を受けている点もマイナスだろう。韓氏自身は標準的な「中華民国派」であっても、中国共産党寄りの偏向報道が目立つ旺旺中時が韓氏を推していることで、「中国政府が望む政治家」とのイメージを拭えないためだ。

フレーム固まらず

 こうした属性を持つ韓氏は、生活水準でも、政党支持傾向でも「中間層」の支持を得にくい。特に目新しい主張をしているわけでもなく、若年層の支持では蔡英文総統に大きくリードされている。聯合報の世論調査によると、現在の支持率は蔡氏と同じ32%で、むしろ以前からの下落が目立つ。公認候補の座は正当に勝ち取ったとはいえ、今後大幅な支持拡大は困難だろう。

 それでも、柯文哲台北市長が出馬を決定した場合は蔡氏の票が食われるため韓氏が有利になる。郭氏の動向も引き続き注目だ。与野二大政党の候補者は決定したものの、総統選のフレームはまだ固まっておらず、現時点では予測が難しい状況に変わりはない。

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