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第83回 ポピュリズムを追う国民党


ニュース 政治 作成日:2019年5月20日_記事番号:T00083616

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第83回 ポピュリズムを追う国民党

 注目されていた国民党の総統選候補の選出方式が先週15日に決まり、韓国瑜高雄市長の擁立を目指す姿勢が明確になった。

/date/2019/05/20/20column1_2.jpg韓氏は先週「総統に当選したら高雄で勤務する」と発言。市長選で投票してくれた有権者をつなぎ留める狙いがあったとみられる(中央社)

 韓氏は「予備選は要請があった場合のみ参加する」との立場だったため、国民党は今回、特例規定を採用。候補指名小組(小委員会)への意見聴取を通じて、韓氏、および党籍回復からまだ日が浅く、本来は立候補資格のない郭台銘(テリー・ゴウ)鴻海精密工業董事長の指名に道を開いた。

 しかも、候補者同士の弁論会は行われないことになった。韓氏は今月上旬、市議会で野党議員の質問に対し、知識不足からまともな答弁ができず、メディアのやり玉に挙げられた。百戦錬磨の郭氏や、地方首長を16年務めた経験を持つ朱立倫前新北市長と直接討論を行えば、やり込められてしまう恐れがある。弁論会省略は韓氏にげたを履かせる思惑がありありで、他の候補者は皆不満だ。

 国民党が規定をねじ曲げてまで韓氏擁立を目指すのは、韓氏が昨年の統一地方選を大勝利に導いた立役者で、依然陣営で最大の人気を保っており、この人気を政権奪還に利用したいためだ。

人気は一過性か

 しかし、韓氏の人気は本物であるかは疑問だ。当選は蔡英文政権の失望感を下地に、「ディズニーランドを誘致する」など派手な公約を乱発し、「発大財(経済発展)」の分かりやすい訴えに徹したこと、および国民党エリート政治家とは異なる面白みのあるキャラクターのたまものであって、政治家としての実績や信頼性が評価されたわけではない。「発大財」が支持されたのは、今の台湾人がいかに景気の良い話に飢えているかの反映であり、実際、熱心な韓氏ファン「韓粉」と呼ばれる人たちには、経済面で恵まれない南部の庶民層が多い。

 韓氏の当選過程や言動を見ると、人気が一過性のものである可能性は高いと言わざるを得ない。それでも国民党は、韓氏ブームを奇貨とし、ポピュリズムに迎合する。中国が台湾に対する統一攻勢を強める中、来年の総統選の結果は台湾の将来に重大な影響を及ぼすとみられ、優勢な勢いにある国民党が誰を候補者に立てるかは極めて重要だ。しかしポピュリズムを追う現状からは、同党は台湾の将来展望を描く力を失ってしまっていると批判されても仕方がないのではないか。

支持率差、やや縮小

 その韓氏も5月に入って、言動や市政パフォーマンスがメディアに批判されることが増え、人気が落ち始めてきた。先週の蘋果日報の支持率調査によると、民進党で総統候補を争う蔡英文総統、頼清徳前行政院長との比較で、蔡氏とはこの3カ月でリード差が14ポイントと大幅縮小。頼氏には12.5ポイントあった差を逆転された。

 国民党の予備選レースでは、直近のインターネットメディアの調査によると韓氏29.3%、郭氏22.8%。差は6.5ポイントで、4月下旬の聯合報調査から0.5ポイント縮まった。郭氏は性格的にアクが強く、先週の川上桃子氏の連載コラム『台湾経済 潮流を読む』(https://www.ys-consulting.com.tw/news/83503.html)で触れられたように鴻海のビジネスがあまりにも深く中国と関わっているため忌避される面があるが、能力と見識は韓氏を大きく上回る。郭氏が選挙活動を活発化させるにつれ、韓氏を逆転する可能性は十分だ。同党の思惑通り、2カ月後に韓氏を候補指名できるかは何とも言えない状況だ。

/date/2019/05/20/20column2_2.jpg郭氏は最近、韓氏を直接批判する戦術に出ているが、韓氏ファンの反発を浴びている(中央社)

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