第86回 「桃園の誓い」、仕切り直しに


ニュース 政治 作成日:2019年8月19日

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第86回 「桃園の誓い」、仕切り直しに

記事番号:T00085270

 総統選に向けて第三勢力として合流を目指す柯文哲台北市長(台湾民衆党)、郭台銘(テリー・ゴウ)鴻海精密工業前董事長(国民党)、王金平前立法院長(国民党)の3人が、18日に桃園市で開かれる法会(ほうえ)に一緒に参加した後、会談を行うという計画が中止になった。『三国志演義』の逸話とかけて「桃園の誓い」と注目された三者会談だが、柯氏によるとまだ擦り合わせるべきことがあるという。郭氏の事務所は同日、3人は決裂したわけではなく、側近が近く会談の日時と場所を手配すると表明した。王氏も「誰も諦めていない。徐々に融合できる」と改めて意欲を示している。

 これに先立つ16日、柯氏は、郭氏からは「副総統兼行政院長」として、王氏からは「副総統」としてそれぞれペアを組むよう要請を受けたが断ったとの裏話を明らかにした(王氏陣営は否定)。3人が一つの勢力にまとまることができるかは、立候補の形態で合意できるかにかかっているようだ。

三つどもえで勝利も

 三者連合、特に柯氏と郭氏の連合について蘋果日報は先週14日、「『柯郭ペア』ならば蔡英文氏(民進党)、韓国瑜氏(国民党)の二大政党の候補をリード」「『郭柯ペア』ならば三者互角」という興味深い世論調査結果を報じた。三つどもえの選挙戦で、第三勢力が勝利できる可能性は十分との情勢を反映したものだ。

/date/2019/08/19/20column1_2.jpg柯氏は結局一人で法会に参加した。三者会談は柯氏が呼び掛けていた(18日=中央社)

 第三勢力に可能性が生まれているのは、直接的には国民党候補が韓氏に決まったことが大きな要因だ。高雄市長に就任して日も浅いのに、「最も勝算が高い候補者」と見込まれて党の推挙を受ける形で予備選に参加し、一部の熱狂的な支持者の支援を得て当選した一連の過程は、郭氏と王氏に不公平感を抱かせた。しかも、誰の目にも優秀な候補者として認められる人物であればまだ納得できるものの、全くそうではない。韓氏が「庶民総統」を標榜(ひょうぼう)したことで、郭氏らには政策を重視するホワイトカラーの有権者層を取り込む余地が生まれた。

民意との乖離生んだ対立

 ただ、より大きな背景としては、約20年続いてきた民進党と国民党のイデオロギー対立がもたらす硬直性が、台湾社会の政策需要との乖離(かいり)を生んでいる現実が挙げられよう。

 両岸(中台)関係を例に取れば、国民党は中国との平和協定締結に前向きだが、統一を警戒する台湾の多数民意と隔たりがある。良好な両岸関係を望む一方で、関係を経済にとどめておきたい世論の受け皿にはなっていない。民進党は中国による台湾併合に反対する民意には応えている。ただ、両岸関係の悪化とセットであり、蔡氏を再び選んだ場合、中国との息詰まる関係がさらに4年間続くことへの諦念も漂う。

 ここに第三勢力が伸長できる余地がある。中国との統一は望まず、独立も現実には困難な現状の下、統独問題を棚上げして台湾の民生経済に力を注ぐ路線だ。二大政党は従来相手側の政策にほぼ全否定で臨んできたが、本来はエネルギー問題やインフラ建設など共通の利益では協力できるはずで、不毛な消耗戦はもはや望まれないのだ。

/date/2019/08/19/20column2_2.jpg国民党を離党する考えはないと表明してきた王氏(右)だが、第三勢力に合流する意志は固いようだ(中央社)

 柯氏が蔡政権の両岸政策を批判し、「両岸一家親(中台は一つの家族)」との曖昧なスローガンの下で中国側との関係を築いてきたのは、そうした「第三の道」が台湾の利益になるとの判断に基づいたものといえる。

 なお、両岸平和協定構想について郭氏は賛成である一方、柯氏は慎重と取れる立場を示してきた。第三勢力として結集し、総統選に参加する場合、郭氏は立場を調整する必要があると考えられる。

吉川直矢

吉川直矢

ワイズメディア

東京外国語大学中国語学科卒。大手放送局記者、海外経済情報メディアでの編集長職を経て、07年Y'sニュース創刊に参加、以来編集長を務める。専門分野は台湾政治。

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