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記事番号:T00075094
2018年1月18日15:45

 先週13日は蒋経国元総統(1910~1988)が死去してちょうど30年だった。国民党は音楽会やジョギング大会など記念行事を3日連続で開催し、その功績を振り返った。

/date/2018/01/18/20column1_2.jpg「永遠にあなたを懐かしむ」。国民党の音楽会では、歌声で蒋経国の功績をたたえた(同党リリースより)

 蒋経国は大型インフラの十大建設を推進、「台湾の奇跡」と呼ばれた経済発展を成し遂げた。また、戒厳令や政党結社の禁止を解除して民主化の先鞭(せんべん)をつけた他、李登輝元総統ら本省人エリートを登用して台湾化への道筋を付け、中国大陸を故郷とする老兵の里帰りを実現させて両岸(中台)交流の端緒を開いた。父親の蒋介石と同じく国民党一党支配体制のリーダーでありながら、父と異なり積極的に民衆と交流して慕われた。国民党は死去30年を機に、今年末の統一地方選挙や総統選挙をにらんで、改めて「蒋経国路線」をアピールすることで支持を訴えたのだ。

われこそ愛弟子

 蒋経国は、歴代で最も台湾に貢献した総統を問うアンケートで、今でも2位以下に圧倒的大差を付けて1位に選ばれる。国民党が記念行事を開いて称賛できる戦後の指導者は蒋経国ただ1人であり、その存在の大きさゆえに、今年も陣営の有力者が「自分こそが蒋経国の後継者」とアピールするシーンが見られた。

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 蒋経国の英語秘書を務めた馬英九前総統と宋楚瑜親民党主席はそれぞれ新しい著作を発表。馬氏は、蒋経国晩年の改革・開放政策は当時の国際関係と中台関係の変化に応じたもので、一般的に指摘される米国の圧力によるものではないとの見方を披露した。一方、宋氏は、多忙な秘書の職務にあった82年、米国に3カ月間短期留学し、その間に馬氏が英語通訳を代行し、その後の出世につながったとの「秘話」を明かした。李元総統もかつて、副総統時代にいかに蒋経国から薫陶を受けたかを記した著作を発表しており、「蒋経国の愛弟子」との表明は現在でも訴求力があると考えられていることがうかがえる。

蒋万安氏に注目

 それでも30年は1世代分の時間だ。蒋経国の名前が効力を発揮するのは今や50代以上の世代であり、若い世代にとっては既に歴史上の人物に近い。蒋経国は経済面では先進国とまだ距離があり、民主化もこれからという時代の台湾で独裁体制の開明的リーダーとして手腕を発揮したのであり、現在とは環境が違い過ぎるため、国民党の「蒋経国路線」が若い世代の心に響くことはない。

/date/2018/01/18/20column2_2.jpg蒋万安氏(右)。父は行政院副院長や総統府秘書長を歴任した蒋孝厳氏。立法委員になってまだ2年にすぎず、台北市長になるにはまだ経験不足その指摘もある(中央社)

 それでも、蒋経国が全く過去の人物になったということはない。それを示す存在が、蒋経国の孫世代で唯一政治に携わる蒋万安立法委員(39)だ。蒋万安氏は、今年末の台北市長選挙に国民党候補として出馬することが期待されている。人気の理由は何と言っても蒋家の一員で、年齢が若く新鮮感があることだ。その蒋家ブランドを支えるのは、中華民国を守ってきた正統であること、および蒋経国時代の経済発展の実績だ。蒋介石は今や、228事件をはじめとした弾圧のイメージが強くなってしまっている。国民党支持層は、蒋万安氏に蒋経国時代の台湾の成功体験を投影しているのだ。

記念行事は欠席

 蒋万安氏は、蒋経国死去30年の一連の行事に全く姿を見せなかった。これは、蒋家色を強く出し過ぎることを懸念したためとみられる。蒋経国も民主化に着手したのは晩年であり、それまでは独裁体制の統治者として民主化の動きを弾圧していたことも事実で、蒋家のイメージには必ずそうした部分も混じるためだ。

 ちなみに蒋万安氏は、若手に有望な人材が乏しい国民党で、次世代リーダーとして多大な期待が寄せられている。蒋経国が残した資産をどのようにキャリアに活用していくのか、これから注目していきたい。

吉川直矢

吉川直矢

ワイズメディア

東京外国語大学中国語学科卒。大手放送局記者、海外経済情報メディアでの編集長職を経て、07年Y'sニュース創刊に参加、以来編集長を務める。専門分野は台湾政治。
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