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記事番号:T00072371
2017年8月18日16:16

 またしても人為的ミスによって台湾が大規模なトラブルに見舞われた。台湾中油(CPC)と下請け会社の従業員2人が、大潭火力発電所(桃園市観音区)に天然ガスを送るラインの部品交換を所定の方式で行わなかっただけで、ほぼ台湾全土にわたる約600万世帯が15日夕方から数時間にわたって停電に陥った。開いた口が塞がらないとは、まさにこういうことをいうのだろう。

/date/2017/08/18/20column1_2.jpg信号が消えた台北市中心部の交差点。人為ミスで最大都市の全域が停電になったケースは珍しいだろう(中央社)

 当日、電気が復旧した後に謝罪の言葉を掲載した蔡英文総統のフェイスブックには、17日午後8時現在で1万3,000件ものコメントが書き込まれており、いかに人々の不満や怒りを買ったかが分かる。コメントには蔡政権の電力政策に疑問を投げ掛けたものも少なくない。

 蔡総統は2025年の脱原発の実現を公約とし、第1原発(新北市石門区)1号機と第2原発(同市万里区)2号機を、定期補修などが終わった後も再稼働させていない。このため、法律で15%と定められている電力の供給予備率は低いままで、7月末の台風9号(アジア名・ネサット)で花蓮県の和平発電所の送電塔が倒壊した結果、先週7日にはわずか2.34%まで低下して「電力供給制限警戒」の赤信号が点灯した。蔡政権はこの危機を乗り切るべく、中央・地方の公的機関に1日の電力使用がピークとなる午後1~3時にクーラー使用をやめるよう呼び掛けたが、あまりの不評に撤回せざるを得なかった。それでも和平発電所の復旧にめどがつき、今夏のヤマ場を乗り越えられたかに見えたその矢先に大規模停電が起こったのだった。

性急さに疑問

 停止中の第1原発1号機と第2原発2号機の発電容量は合計160万キロワット(kW)強のため、今回の大規模停電で供給できなかった438万kWを埋め合わせることはできず、再稼働させていたとしてもやはり停電は防げなかった。ただ、それでも再稼働させていれば、大潭発電所の発電機全6機をフル稼働させておく必要はなかったはずで、被害が軽減されたことは確実だ。

 ここで注意しておかねばならないのは、台湾の世論は必ずしも原発推進に贊成ではないことだ。むしろ、福島原発の事故以降は、狭い国土で同様の事故が起これば台湾は再起不能になるとの認識が広がり、脱原発の方針そのものは共感を呼んでいる。問題視されているのは、2025年と早めの期限目標を設定し、性急かつ綱渡り的に推進する蔡政権の手法だ。人々が望んでいるのは、十分な電力供給を確保した上での痛みやリスクの少ないやり方なのだ。

民進党支持紙さえ批判

 こうした指摘に対し林全行政院長は16日、「原発でトラブルが起きれば大変な災害となる。できるだけ利用を減らすべきだ」と発言し、最悪の状況に陥らない限り再稼働は行わない考えを示した。

 第1原発では昨年3月、職員のスイッチの切替ミスで2号機が緊急停止し、4日間稼働が止まる事故が発生しており、人為的要因による事故の多い台湾では、原発災害という最悪の事態が起きるよりは、電力不足の方がまだましという考え方はあり得なくもない。

 それでも、蔡政権が今回の大規模停電で改めて評価を落としたのは事実だ。電力は社会インフラの根幹で、特に産業界にとって安定的な供給は何よりも重要だ。台湾で投資を検討する企業には、万に一つの可能性かもしれない原発事故よりも、電力供給が十分か否かが問題で、不安定であれば投資意欲が減退し、ひいては台湾経済全体に影響してしまう。民進党の電力政策は経済や民生よりも理念を優先しているように見え、そこが疑問視されている。普段は民進党支持の自由時報でさえ「一定の供給予備率を維持することは必要」と批判したのは印象的だ。

 脱原発の理念は間違っていないだろうが、電力供給予備率が低いままでは人災や天災によって再び停電が広がる下地が残る。そうなると蔡政権の評価が地に落ちることは確実なため、この問題では早急な具体策が求められる。

吉川直矢

吉川直矢

ワイズメディア

東京外国語大学中国語学科卒。大手放送局記者、海外経済情報メディアでの編集長職を経て、07年Y'sニュース創刊に参加、以来編集長を務める。専門分野は台湾政治。
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