第72回 呉敦義氏当選、「台湾国民党」へ第一歩か


ニュース 政治 作成日:2017年5月26日

ニュースに肉迫!

第72回 呉敦義氏当選、「台湾国民党」へ第一歩か

記事番号:T00070794

 20日に行われた国民党主席選挙で、呉敦義副主席(69)が過半数の票を得て、現職の洪秀柱主席ら対立候補5人に圧勝した。呉氏勝利の最大の意義は、国民党が再び民意の受け皿として復活することだ。蔡英文政権は目立った実績を挙げられず人気が低迷しているが、それでも統一派の洪氏をトップに戴く国民党では、その不満を吸収して党勢を盛り返すことは不可能だった。その意味で台湾出身の呉氏の勝利は、同党にとって再起の可能性を最も高める選択だったといえる。

/date/2017/05/26/20newscolumn1_2.jpg洪主席(右)と呉氏(左)は選挙後、団結を誓った。洪氏の任期は8月までだが、交代を1カ月前倒しする案を受け入れたと伝えられている(中央社)

 呉氏の中台関係の路線は自身が副総統を務めた馬英九前政権がモデルで、「1992年の共通認識(92共識)」の枠組みの下、台湾海峡の安定と平和的発展を目指すものだ。選挙期間中、92共識を訴える際は必ず「中台でそれぞれの解釈(一中各表)」を強調して、洪氏とは異なる現状維持路線をアピールした。

「統一したければ中国に行け」

 それでも、馬前総統と呉氏の「現状維持」には明確な違いがある。馬前総統にとっては、将来の統一を目指す過程において、相互交流を通じて中台間の差異を埋めるためのプロセスだ。一方、呉氏は、台湾の主権と安全を守るため、現状維持そのものを目的にしていると言える。

 このことは呉氏の選挙中の発言からうかがえる。4月下旬に行われたネットメディアでのインタビューで、「国民党は統一を強調する立場を続けるべきか」と問われた際、「その必要はない。なぜなら統一の議論は非現実的なためだ。独立も不可能で、平和が一番よい。統一したいのであれば対岸(中国)に行って住めばよい。2,300万人の同胞を巻き込む必要があるのか」と語った。

 統一を否定したこの発言は「民進党とどこが異なるのか」と洪氏から批判を浴びたため撤回したが、呉氏が台湾中心の発想を持つことは明白だ。

 5月6日に行われた主席選候補者によるテレビ討論会では、洪氏は自身を「台湾人であり中国人でもある」と説明した上で、呉氏のアイデンティティーを問いただした。しかし、呉氏は回答を避けた。

 呉氏は南投県出身で、中国時報の記者を経て、台北市議、南投県長、高雄市長を歴任した。中国化教育を受けた世代ではあるが、中南部の台湾語社会で末端の有権者にもまれながら政治家として成長してきており、中国アイデンティティーは恐らく薄いだろう。

 ちなみに国民党は07年以降、呉伯雄、江丙坤、黄敏恵といった本省人が代理主席を短期間務めたことがあったが、台湾アイデンティティーを持つ本省人が正規の主席に就くのは、李登輝元総統以来2人目となる。

第2の李登輝?

 呉氏の国民党は、統一に消極的という安心感から蔡政権に対する不満の受け皿に成り得るため、民進党にとって望ましくない結果となった。ただ、国民党の再起にはいくつもの課題が横たわる。まずは党の安定的な運営を図れるかだ。 

 21日付自由時報によると、今回同時に選挙が行われた党代表のうち、約4分の1が洪氏支持者ら統一志向の強いグループだ。呉氏は今年2月、統一派の幹部から「第2の李登輝になるのではないか」と懸念を示されたことがあった。統一派にとって李元総統は、かつて党を分裂させ、長期政権を崩壊させた許し難い人物だ。幹部の発言は本省人指導者に対する不信感の反映で、彼らは呉氏が「中国国民党」を「台湾国民党」に転換させないか警戒の目を光らせるに違いない。

 中国から不信の目で見られる可能性も小さくない。呉氏が「それぞれの解釈」を唱え続けて政治的距離を縮めないのであれば、中国の目には「統一に消極的」と映り、国共連携の相手として好ましくないと見なされることになる。今回、習近平・中国共産党総書記が祝電を送ってきたのは当選発表から1時間半たってからで、昨年3月の洪氏当選の際には「あなた」の敬称「您」を使ったのに、今回は単なる「你」であったのは、呉氏への警戒感と見て間違いない。中国との関係をうまく運べなければ党運営の難しさは倍加し、当然有権者の支持にも影響が出る。

/date/2017/05/26/20newscolumn2_2.jpg投票日直前の新聞広告は、統一派グループを意識して、台湾独立反対や、中国国民党の党名変更を行わないことを強く訴えるものだった(YSN)

 呉氏が高齢でフレッシュさがなく、優秀な実務家であるものの政治家として人気に欠ける点も、党立て直しを難しくする一因になるだろう。

 なお、独立派陣営からは「台湾国民党への第一歩」として期待する声があり、これは呉氏の思想と経歴からしてうなずける指摘だ。呉氏の国民党がどのような展開をたどるかは実に興味深く、当面は党勢回復に向けた来年の統一地方選への取り組みに注目したい。

吉川直矢

吉川直矢

ワイズメディア

東京外国語大学中国語学科卒。大手放送局記者、海外経済情報メディアでの編集長職を経て、07年Y'sニュース創刊に参加、以来編集長を務める。専門分野は台湾政治。

ニュースに肉迫!