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記事番号:T00071642
2017年7月12日15:52

 今月1日は香港返還20周年で、習近平中国主席が初めて現地を訪問し、全世界の注目を集めた。その直前、多くの街路プレートに「香港陥落20年」との文字がスプレーで吹き付けられる事件が起き、習主席の香港訪問は厳戒態勢の下、6万人の民主化要求デモに迎えられた。それは、返還後の20年間が香港住民にとって失望感に満ちたものであったことを示していた。

/date/2017/07/12/20column1_2.jpg1日香港で行われた民主化要求デモ。14年の雨傘運動への抑圧は住民に無力感を生んだもようで、参加者は従来に比べて大幅に減っている(中央社)

 1984年の中英共同声明で約束された「香港人による高度な自治」は空手形に終わった。普通選挙による行政長官選挙を求めた2014年の雨傘運動は抑圧され、今月、親中派の林鄭月娥(キャリー・ラム)氏が行政長官に就任。愛国主義教育の強化や、中国政府への敵対的な活動を取り締まる「国家安全条例」の制定を北京から求められており、今後民意とのあつれきが予想される。

高度な自治権は反故

 かつて中国と西側諸国の唯一の窓口だった香港は、返還以降、台湾にとって一国二制度のモデルケースとなった。このため中国は、香港をうまく経営して台湾人を安心させなければならなかったのだが、真逆の結果となっている。

 6月30日、中国外交部の陸慷報道官は、中英共同声明について、「歴史上の文献であり、中国および特別行政区政府による香港の管理に何ら拘束力を持たない」と発言した。一度取り込んでしまえばあとは思い通りという、一国二制度に対する本音をあからさまにしたもので、台湾が同制度を受け入れた場合、高度な自治権や自由は反故(ほご)にされることが明確に示されたと言える。

 中国は今後も香港に対し、民主化や反中国の動きを抑圧しつつ、珠江デルタ、マカオとの連携発展を図る大湾区計画によって、中国との一体化を促進するとみられる。香港に待つのは、かつての魅力を失い中国の一地方に転落する未来だろう。

「228事件までの台湾と同じ」

 香港返還からの20年は、台湾人の目にどのように映るのか。「228事件(1947年2月に起きた国民党政府による台湾住民弾圧事件)が起こるまでの過程とよく似ている」と語るのは、二二八国家紀念館(台北市中正区)の林辰峰副執行長だ。林氏は21年前、台湾独立派の著名歴史学者、李筱峰・台北教育大学教授から「香港で228事件と同じことが起きることも考えられる」という話を聞いたことから、現在の香港と当時の台湾との関連性にずっと注目してきた。そして今月の返還20周年に当って両者を比較する特別展「過去台湾・今日香港・未来???」を同館で開催した。

/date/2017/07/12/20column4_2.jpg「台湾」と「香港」の漢字を組み合わせた文字をデザインした。両地は運命共同体との思いを込めた(YSN)

 会場では「政治」、「経済」、「軍事」、「教育」といったカテゴリー別に、展示ボードの表には香港返還後に、裏には日本の敗戦から228事件に至るまでに台湾で起きた事件や出来事を伝える新聞記事を貼り、ブース状にして展示している。

 「教育」では、香港政府が2012年、中国政府を盲目的に称賛する教材に資金援助を行っていたことが分かり、延べ22万人の抗議デモ・集会に発展したこと、台湾では当時ある学校で日本語の歌を歌っていた学生たちが退学処分を受けそうになり、家長らも巻き込んだ授業ボイコット事件が起きたことが新聞記事を通じて分かる。両者に共通するのは「中国化教育」の押し付けだ。

/date/2017/07/12/20column3_2.jpg新聞記事を通じて、香港と台湾に起きた出来事と苦難を解説する。展示は10月1日まで(中央社)

 香港では英領時代に汚職取り締まりで信頼されていた廉政署で不正が相次いだ一方、台湾でも中央・地方を問わず、外省人役人による汚職や不正が深刻な社会問題になった。香港は新型肺炎SARSや鳥インフルエンザといった英領時代にはなかった疫病に見舞われ、台湾では日本統治時代に根絶されていたコレラやペストが大流行した。返還後の香港と、国民党政府接収後の台湾で起きた事件や出来事は、実に似通っていることが分かる。

強気一辺倒の中国

 「中国が祝う香港返還20年の、内実を教えてくれるのが228事件だ」と林副執行長。香港の現在の姿は台湾にとって「過去に起きたことを忘れるな」という警告とみている。

/date/2017/07/12/20column2.jpg_2.jpg林辰峰・二二八国家紀念館副執行長。銅版画家で、政治的メッセージを持つ作品を制作。06年より二二八事件紀念基金会に参加し、展示や宣伝活動に従事する(YSN)

 最近の中国は強硬一辺倒で、台湾に対して「一つの中国の原則堅持のみだ。(中国と台湾による)『それぞれの解釈』も認めない」という姿勢を強調するようになった。統一受け入れ以外は余地なしと迫っているに等しく、今秋の第19回共産党大会以降の中台関係に懸念が持たれる。ただ、こうしたスタンスでは、過去にそうであったように台湾の民意がますます中国から離れるだけだ。

 「台湾は努力しないと香港と同じ運命をたどる。団結し、自由・民主を徹底して、中国に影響を及ぼしていくのだ」と林副執行長は語気を強めた。独裁と弾圧、私欲至上の変わらない中国。それに粘り強く対抗していくことは周辺諸国の人々にとって宿命で、香港や台湾の人々と同様、われわれ日本人にとっても重要な課題であることは言うまでもない。

吉川直矢

吉川直矢

ワイズメディア

東京外国語大学中国語学科卒。大手放送局記者、海外経済情報メディアでの編集長職を経て、07年Y'sニュース創刊に参加、以来編集長を務める。専門分野は台湾政治。
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