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第76回 蔡総統と中国、それぞれの新情勢


ニュース 政治 作成日:2017年10月31日_記事番号:T00073663

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第76回 蔡総統と中国、それぞれの新情勢

 中国共産党の第19回党大会が先週閉幕し、習近平総書記による一強支配体制が強固になった。台湾独立を強くけん制した習総書記の政治報告に対し、蔡英文総統は26日、改めて中国側に関係改善と対話を求めたが拒否された。これに先立つ10日の双十節式典では「両岸(中台)と地域の新情勢に面して、両岸の指導者は新たな交流のモデルを求めるべきだ」と呼び掛けていた。

/date/2017/10/31/20newscolumn1_2.jpg両岸交流30周年記念フォーラムでの蔡総統。30年前の国民党軍老兵の中国大陸里帰りに触れるなど、これまでで最も感情を込めて中国に対話を訴えた(中央社)

 「新情勢」は今年5月以降、蔡英文総統がたびたび言及しているが、その内容を詳しく説明したことはない。民進党によると、そこには台湾の民意の変化が含まれる。すなわち、中国が中台交流の原則とする「一つの中国」は台湾の多数民意が受け付けなくなり、やがて交流の基盤として成り立たなくなるとの認識を指す。

台湾の民意が変化

 蔡政権は昨年5月の発足以来、国民党の弱体化に全力を傾けてきた。不当党資産処理委員会(党産会)を通じて、同党傘下の投資会社を国有化した他、かつての不当な不動産・土地取得に8億6,000万台湾元もの巨額の追徴金を課徴。外郭団体である中華民国婦女聯合会(婦聯会)の解散を決め、中国青年救国団も処遇を検討している。

 国民党は財政面で窮地に追い込まれた結果、来年以降の選挙に影響が出るのは必至と民進党は分析している。選挙集会への動員などに金を使えなくなるため、純粋に政策、路線、候補者の魅力で勝負せざるを得なくなる。一方、台湾社会は年々、台湾アイデンティティーの強い若年層への世代交代が進んでいる。「三民主義の統一中華」を根本思想とする国民党は既に若い世代の共感を得にくくなっており、やがて総統選挙で勝てなくなる。この結果、中国が「一つの中国」を中台交流の条件として堅持しても、台湾側にカウンターパートが存在しなくなってしまう。これが蔡総統の語る「新情勢」の重要な一部分であり、ゆえに中国に対して「一つの中国」の強要一辺倒をやめて、新たな思考で臨むよう求めているのだ。

「戦争に至ることはない」

 今年中国メディアでは、台湾との平和的統一の見通しが厳しくなった場合、武力統一を選択せざるを得なくなるとの報道が散見された。台湾が「一つの中国」を受け入れないのであれば、中国は民進党政権にさらに強硬な態度で臨むことが想像できる。

 しかし、民進党は楽観的だ。同党新聞部の孟義超主任は筆者に「言葉による脅しは増えるだろう。しかし両岸の経済交流は、もはや断ち切ることが不可能なほど大きくなった」と語り、過去30年の交流の積み重ねが防波堤となって、中台は戦争に至ることはないとの見方を示した。当面、米国にとって西太平洋における台湾の戦略的重要性に変化はなく、米台間の潜在的な同盟関係によって台湾海峡で戦争は起きないとの見通しの下、中国はやがて台湾への姿勢の見直しを迫られると考えている。

新情勢は「中国の発展」

 一方、「新情勢」への対応に迫られているのは、逆に蔡政権の方だとの論調が最近聯合報で展開されている。それはすなわち中国の目覚ましい発展であり、分野によっては台湾を逆転し、差を広げつつある近年の現象のことだ。世界的強国を目指す中国と互恵関係を維持することこそ台湾の今後の発展と孤立化回避に重要で、さもなければ衰退は免れないとの主張だ。

 蔡政権発足後、台湾は中台関係の悪化によって▽海峡両岸経済協力枠組み協定(ECFA)のサービス貿易協定など経済協力協定の交渉中断▽中国人観光客の大幅減少▽中国への農産品輸出縮小▽「外交休兵」中止による承認国減少▽中国軍機による台湾周辺での演習など軍事面での圧力強化▽民主活動家、李明哲氏の拘束──などのマイナス要素に見舞われている。

統一地方選に注目

 このため、中台関係が冷え込んだままであるのは望ましくないとの世論は依然強く、民進党寄りの台湾民意基金会が先週発表した世論調査によると、蔡総統の対中政策の実績に対し「不満」は過半の52.1%で、「非常に不満」の21.8%もこれに含まれる。頼清徳行政院長が就任して1カ月半余りで、蔡政権の声望はやや持ち直したものの、対中関係への低い評価は変わらない。

 台湾が迎える「新情勢」とは、台湾アイデンティティーに傾く社会構造の変化なのか、または発展する中国の重要性増大なのか。それに対する民意が示される最初の機会が来年末の統一地方選挙だ。国民党の組織弱体化、中台関係の悪化への不満という2つの重要な要素が絡む同選挙は、20年総統選の前哨戦でもある。現在台湾と中国は、それぞれが望む交流の在り方を相手側に要求しているが、どちらがより説得力を持つのかも2つの選挙を通じて明らかになっていくことだろう。

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